第63話 太古の遺跡へ
ちりんちりーん
「レイラさーん。おはようございます!」
聞きなれた鈴の音をバックにサブマスの名を呼んだのは私ことサクラ・トレイルだ。
今朝私は心配そうな顔をしたカトレアちゃんに見送られ、緊急クエストを受けに冒険者ギルドにやってきた。
中にいた冒険者たちはこちらを見てすぐに談笑に戻る人もいれば先日の情報を得たいと耳を澄ませている人もいる。前回レイラさんに絞られたからか、無理に詰め寄ってくる人はいないみたいだ。
「サクラさん。お待ちしていました。陛下からの指名依頼が来てますよ」
陛下の名前が出てギルド内が少しざわつく。
「陛下から緊急クエストを出すとは聞いていたけど指名だったんですね」
「普通の人には任せられませんから」
魔族が関わっていたり元貴族が関わっていたりする事件だから信用できる人、その中でもある程度事情を知ってる人の方が任せやすいってことかな? ギルマスの部屋へと向かいつつ依頼の簡単な内容の説明を受ける。
「内容はすでに伝わってますね? 太古の遺跡にいるアービシアの確保と魔族の殲滅が依頼内容です。特に価値があるとは言われていませんが遺跡には変わりないので魔境を作ったりクレーターを作ったりしないようにお願いします。魔境やクレーターじゃなければ遺跡を崩壊させても良いとはならないので注意してくださいね?」
「うっ」
ニコニコの笑顔で釘を刺された。わざとやったわけじゃないのに……。そんなに信用無いかな?
コンコンコンッ
毎度おなじみになってきたギルマスの部屋に行くとすでにライアスが来ていた。
「待ち合わせにこの部屋を使うのはあんたらくらいのものだよ」
ライラさんが呆れた声で言っているが別々に来ただけで待ち合わせ場所にしたわけではない。自意識過剰というものだ。
「サクラ、なんだい?」
「なんでもないです」
何かを察したライラさんに睨まれた。うぅ。
「お姉ちゃんも睨まないの。はい、いつもの」
レイラさんがいつものお菓子を出してくれた。やっぱりここに来たらこれを食べないと。もぐもぐ。
「おい、今からアービシアのところ行くんだぞ。緊張感を持てよ」
「今から気を張ってると持たないよ?」
ライアスっておかんみたいだね。まだまだ王都の中で遺跡にも着いてないんだから気を張る必要もないでしょうに。
「サクラは気を緩め過ぎだ」
「大丈夫。遺跡に着いたら気合を入れるから」
ライアスが脱力する。うんうん。イイ感じの力の抜け具合だと思うよ。
ライラさんから改めて依頼の内容を聞き、問題がないことを確認する。……ライラさんにも釘を刺された。納得がいかない。
「じゃ、簡単な説明も受けたし行くか」
気を取り直していざ遺跡へ! もぐもぐ!
―――
「魔の森に来るとホームって感じがするね!」
「しねーよ。というか魔の森に入ったのはセレスを迎えに来た一度だけだろうが」
それでも不思議と何度も来た感覚がするのだ。エンシェントエルフになったからかな? どちらにしろ森はエルフのフィールドなのだ。少しテンションが上がるね!
「遺跡は向こうだね! 早く行こう!」
「それにしてもなんで何もない遺跡を拠点にしてるんだろうな」
ライアスが疑問を呈す。言われてみれば不思議だよね。SDSでも何もない遺跡だったし……。
「何もないから人が来ないと踏んだのか、もしくは誰も気づいていないだけで何かあるのかのどっちかだよね」
「SDSで考察班とかもいたのに気付かなかったのか? さすがにそれはないだろう」
確かに日本には考察班もいたし、遺跡や魔の森についても何かしらの意味があるのではないかと考察している人たちもいた。私も気になってネットで調べたこともあるけどなんの情報もなかった。でもそれは超級適正やセレスに関しても言えることだ。
「いやいや、私の適正も知られていなかったしセレスのことも知らなかったんだから考察班が気付かなくても不思議じゃないでしょう?」
「そういやそうか」
遺跡に何かあるとしたらなんなのか。あーだこーだ話しつつ遺跡に向かう。
「見張りがいるね」
「どうする? やり過ごすか? それともやるか?」
遺跡の近くにいくと見回りをしている魔族がいた。前回遺跡の結界を見に来たときは見張りなんていなかったのに……。やはり戦争の準備で魔族たちが集まってきてるのかな?
「後で探すのも挟み撃ちになるのも面倒だから倒していこうか」
「ばれないようにこっそりとな」
言われなくても分かっている。敵の数が分からない以上、隠密行動をとるのが最も安全かつ効率が良いだろう。
「氷華。よろしく」
微小な冷気を発生させて魔族の口周りを塞ぐ。魔族が驚いた好きに背後に忍び寄って首を切り落とす。
「手際が良いな」
「隠密の方法も集団を作る人型の魔物の倒し方も母さまに仕込まれてるからね……」
うん。洗礼式すらまだの時にゴブリンの巣に放り出されたのはいろんな意味で嫌な思い出だ。おかげで隠密の仕方や暗殺みたいな方法を身に着けることはできたけど、十歳にも満たない幼女を連れていく場所ではなかった……。
「サクラも苦労してんだな……」
「おかげで強くはなったけどね……」
うん。やり方はどうかと思うけど強くなれたし感謝はしている。
―――
見回りをしている魔族を一通り倒し、遺跡の外にいる魔族も一掃してから遺跡の入り口に来た。見張りの魔族が二人立っている。
「まだ気づかれてなさそうだ」
「そうだね。そしたら遺跡の中に入ってからの行動を少しおさらいするよ」
「待て待て、相手が異変を感じる前にさっさと侵入するぞ」
まったく、これだからライアス君は……。
「その腹立つ顔を止めろ。なんでさっさと攻め入らない?」
「父さまが学園長から盗んだ結界が張られているでしょう? 解除してもしなくても結界がある限り私達の侵入はばれるんだよ?」
慌ててもいいことは無いしね。ライアスも私の主張に納得し、中での行動をおさらいする。
「じゃあ結界を解除したら表を守ってる人たちもさっさと倒して中に侵入しようか。レオンもセレスもよろしくね!」
「おう!」
逃げ道も確保したし後は侵入するだけだ。
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