第62話 魔族

桜姫はるひめともあろうお方が不甲斐ないわね」


 襲撃のせいでパレードが中断され、王宮へと戻った私達。私に嫌味を言うのはもちろんガーベラだ。


「捕まえた瞬間自害するとは思わないでしょう?」

「それでもどうにかするのがプロとしての気概ではなくて?」

「別にプロじゃないんだけど……」

「なにかおっしゃいまして?」

「イエ、ナンデモアリマセン」


 パレードの終盤で襲撃された私達だったが、セレスのおかげで敵の場所が分かりすぐに攻勢にでた。捕らえるのは簡単だったのだが、一人目を捕まえた瞬間、他の敵が捕虜を殺し、残った五人全員が自害したのだ。


「まあまあ、一人だけですが無事に捕まえることができたのですし、サクラさんを責める必要はないでしょう」

「ライアスさんはさすがですわ。ですが、それとサクラさんが不甲斐ないことは関係ありませんのよ」


 私とセレス、レオンは襲撃犯に自害されてしまったが、ライアスだけは無事に一人を捕縛にしたのだ。


「いや、回復魔法を使えないと捕らえるのは無理だったからな。サクラに捕らえられなくてもしかたないだろう」


 ライアスは一人が自害した時点でもう一人が自害しないように回復魔法を過剰にかけつつ捕まえたらしい。私からしたらセレスの豊穣の神デメテルで蘇生薬を創ればいいと思っていたけど、生命の蘇生だけはできないそうだ。生きてたら全回復させることはできるらしいけど蘇生だけは別物らしい。蘇生は創造神でも無理なのだとか……特殊な方法を使うと疑似的な蘇生もできるらしいがそれも制限があるとのこと。


「それにしてもアービシアではなく魔族が襲撃者でしたか……」

「裏でアービシアに繋がった可能性も否定できないが、王族や契約者を抹消するチャンスと思って仕掛けてきたのかもな」

「むしろ繋がってる可能性が高いかもよ?」


 そう、襲撃犯の正体は魔族だった。現在、アースフィアに七つある種族のうち唯一敵対している種族で神霊ではなく魔王を信仰している。魔族から出てくる神霊の契約者は例外で人と寄り添う者が多いらしく正体を隠して人族の生活に紛れ込むそうだ。そういえば今の契約者であるレオナードもレオナと偽名を使って文化祭に混じっていたね。


「なんでそう思う?」

「んー、まずは前提として、繋がる方が父さまにとっても魔族にとっても都合がいいと思うんだよね」


 いわゆる利害関係の一致からの互いに利用しあう仲というわけだ。


「都合がいい?」

「父さまは戦力を増やせる。魔族は人族の情報が手に入る。ほらね? Win-Winでしょう?」

「スタンダードを起こせるような人が戦力を求めているんですの?」

「あぁ、ガーベラは知りませんでしたね。サクラとセレスのおかげでアービシアの戦力はすでに壊滅しているんですよ」


 ちょっと違うけど? ……そうか、セレスが敵の味方をしていたってことを隠したいのかな? 咄嗟に嘘をつくとは。シルビア、恐ろしい子!


「それで、今までもパレードはしていたけど襲撃されることはなかった。なのに今回攻めてきたのは情報が手に入ったからかなって」

「題目はともかくパレードを行う時期はいつも決まってますからね……。情報源がアービシアと考えると突然パレード中に攻めてきた事実に辻褄が合うということですか」

「ま、こってりと絞ればわかるだろ」

「どうでしょうか。すぐに自害を選ぶような連中です。ちゃんと情報を吐くか……」


 ちょんちょん


 ん?セレスが私の足を突いてる。何その動作。可愛い!

 悶えていると再度テシテシしてきた。よく見ると手に木の実を持っている。


「これは?」

「それ食べると嘘をつけなくなるよ! あと、聞かれたことには素直に答えるようになるの!」


 えっぐい自白剤ですか……。ま、ありがたく使いましょうか。お礼にセレスをわしゃわしゃする。


「シルビア」

「ええ、聞いていました。活用させてもらいますね」


 シルビアに木の実を渡す。これで情報が手に入るだろう。


「どうしてこの木の実を作ってくれたの?」

「さっきはサクラのお願いを叶えられなかったから……。代わりにならないかなって」


 しゅんとした顔のセレスの頭をなでる。


「気にしなくてよかったのに。でも、ありがとうね」

「えへへ」


 うんうん。セレスは笑ってないとね。


 ―――


「いろいろと協力してくれてありがとう。おかげで助かったよ」


 場所は変わらず王宮の一室。シルビアに木の実自白剤を渡してからしばらく談笑していると陛下がやってきた。どうやら魔族から情報を得たようだ。……陛下自ら聞き出したのかな?


「いろんな情報を掴んだよ。サクラ君の予想通りアービシアと魔族は手を組んだそうだ。今は太古の遺跡で攻め入る準備をしているようだよ。冒険者ギルドに緊急クエストとして依頼するつもりだけど先に言うね。サクラ君。ライアス君。アービシアの捕縛と魔族の殲滅をお願いできるかな?」

「魔族は殲滅なんですか?」

「うん。わざわざ攻め入ったりはしないけど、攻めてきても生きて帰れることを知ったら何度も攻め込んできちゃうからね。情報は欲しいけど、どうせ下っ端しかいないだろうし、それならすでに捕まえてる魔族と持ってる情報に大差ないだろう」


 たしかにノーリスクなら何度も攻め込めるな。それにしても幹部は来てないのかな?


「魔族は人嫌いだろう? 手を組んだ相手とは言え、人間のいる場所に幹部以上の魔族は来ないと思うよ」


 確かにその通りかもね。


「承知しました。その依頼、受けさせてもらいます」

「悪いね。サクラ君は実父と敵対することになる。心情的につらいかもしれないけどまかせたよ」

「いえ、父さまのことはほとんど記憶にありませんから。大丈夫だと思います」


 ―――


 時間も遅くなっていたため一度学園の寮へと帰る。明日から緊急クエストが始まるが今日はもう寝るだけだ。お風呂にも入り終え、布団に入るとカトレアちゃんが話しかけてきた。


「サクラ。陛下はサクラとライアスを指名していたけど、わざわざサクラがアービシアと対峙する必要はないのよ?」

「……」

「アービシアのことはライアスに任せちゃいなさいよ。ほとんど思い出が無くても父親なんでしょう?」

「……そうだね」


「サクラが一人で全てに対処する必要はないの。きついことはセレスやライアスに丸投げしちゃいなさい」

「うん」

「今日はもう寝ましょう。サクラ、おやすみ」

「うん、カトレアもおやすみ」


 カトレアちゃんの言いたいことは分かる。……分かるけど父と対峙するのは私だと思う。なぜだかそんな予感がするのだ。

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