第3話 僕の夢はこれからだ②
僕は今、人生で最大に陽キャだろう。隣にギャルを連れ下校する。これを陽キャと言わずして何と言うのか。
まあ、一つ懸念点があるとすれば、この陽キャ空間には全くと言って良いほど会話が無いというところだ。
とどのつまり、致命傷である。
「……」
お互いが無言のまま、かれこれ10分ほどか。2人並んで歩く帰り道。夢に見るほど憧れた、女子との下校がこんなにも苦痛だとは思いもしなかった。
何か展開は起こらないものかと思い、金山さんの方をチラ見する。
「…なに?」
「いや、べつに…」
「そ…」
完。
ご愛読ありがとうございました。
いや待て、終わるな。
靴箱で会ってからずっとこんな調子だ。そもそも、何で金山さんは何も喋らないのか。用事があるから一緒に帰るんじゃないのか?
などと考えながら、これまた10分ほど歩いていると我が家に近づいてきた。
さすがにこのまま帰るのはちょっと嫌だ。とはいえ、ギャルに話しかけるのは大変勇気のある行為で、断られた時の怖さを考えると迂闊には声をかけられない。
がしかし、このままでは何も始まらない。なけなしの勇気を振り絞り、僕は声を発した。
「「あの…!」」
「「あっ…」」
第二部完。
次回作にご期待ください。
絶望の声かけ被りである。例えるならば、足りるだろうと高を括ってレジに持っていったら10円足りなかった時の感覚だ。
すると、金山さんはついに痺れを切らしたのか、大きなため息をついた。
「ごめん、全然喋らなくて」
金山さんは頭の後ろに手をやってそう言った。
「いや、別に僕は大丈夫だよ」
本当はかなり気まずかったですけどね!
「配信のことでちょっと色々聞いてみたいなーって思ってたんだけど、いざ2人でいるとなんて声かけたら良いか分かんなくてさ…はは」
苦笑いだが、その笑顔はとてもかわいかった。やっぱ顔が良い。
僕は、そう言うことかと急に緊張が解けなような気がした。緊張が解けると急に喋りたくなり、思い切って配信のきっかけなんかを話してみた。
「大手配信者の【チョキ】さんって知ってる?」
「もちろん知ってる!あの声がめっちゃ可愛い人!あの人がどうかした?」
よかった、食いついてくれた。
「実は僕、チョキさんに憧れて配信を始めたんだ。でも全然配信伸びなくて」
すると、金山さんは「なるほどな〜」と笑顔で言ってくれた。うんうんとひとしきり頷いた後、今度は腕を組んでうーんと唸り出した。顔が良いからか、いちいち絵になるなこの人は。
少し経った後、決心したかのように僕の方に向き直る。
「天城!私にもその憧れ、協力させてくれないか?」
豆鉄砲を食らったような顔をしている僕。
配信の、協力?
「具体的には、一緒に企画を考えたり、研究と対策をやろうって感じ!」
「え、え」
僕がそう言って狼狽えていると、金山さんはハッとしたような顔をして、
「あ、ごめん…。私、好きな事とかになると空気読めなくなるんだった。迷惑だった?ごめんねさっきのは忘れてくれて良いから」
少し悲しそうに、苦笑いをする金山さん。こんなに可愛い女の子に遠慮なんかさせて良いのか僕。否、良くない。
僕は金山さんの手を握り、顔をぐいっと近づける。
「金山さん!ありがとう!全然迷惑なんかじゃないよ!むしろ嬉しい!しかも、ずっと僕の配信を見てくれてたんだから金山さんの言葉はきっと力になる!だから、是非とも僕と協力関係を結ぼう!!」
例え金山さんがギャルでなくとも、男でも、誰でも僕はこう言っただろう。それが僕と言う人間の価値だ。
「わ、分かった!分かったから、近いよ…!」
慌てて金山さんの手を離し、距離を取った。初めて女の子の手を握ってしまった……。姉とは違い、なんだろうこの気持ち。心がぽかぽかしまふ。
「ごめん、、嬉しくてつい」
金山さんは顔を真っ赤にしながら、
「いや、別に嫌じゃないから……。てそれは置いといて、じゃあ早速明日から作戦会議をしよう!私のLINE持ってるよね?じゃ、私はもうこれで帰るから!嬉しいって言ってくれて私も嬉しかった!じゃあね!」
金山さんは駆け足で帰って行ってしまった。なんか悪い事でもしてしまったのだろうか…。
ともかく、これで僕たちは協力関係になったわけだ。と言うことは、明日から僕の、いや僕たちの配信者としての覇道が始まるのだ。待っていろ、チョキさん。いつかコラボしたい。
こうして僕の配信者としての人生は、ここから始まった。39さんこと金山さんと、チョキさんに近づくため一緒に頑張っていくのだ。
そして帰宅した。
・・・
・・
・
1人の女が、天城由良と金山美久の後ろを付けていた。彼女は2人が何か会話をして、天城が金山の手を握る一部始終をしっかりと見ていた。
「私の由良ちゃんがギャルに拐かされている……助けないと」
怪しく目が光った。
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