第120話 伝説の剣~sideエディアルド~

「ふむ、この魔石とエディーメタルをかけあわせればとてつもない剣がつくれるぞい」

「エディーメタルか……俺の愛称がエディーだから、何か縁があるのかもな」

「エディーメタルは我が故郷でしかとれぬ稀少金属で、剣を作り上げる量を採取できるのは百年に一度、あるかないか……勇者が持っても良いくらいのものが出来るとは思うのじゃが、まぁ、勇者には伝説の剣ジュリアークがあるからのう」


 俺とクラリスは顔を見合わせた。

 伝説の剣 ジュリアーク。

 女神ジュリが生み出したと言われる、光の鉱石を使い、ロックス一族の手によって作り上げられた剣だ。

 その剣は本来ならば、とっくにアーノルドが手にしないといけない武器だった。

 小説によると国王の座に就く前に、アーノルドはミミリアや四守護士と共に冒険に出ていた。

 

 その冒険によって主人公、ヒロイン、脇役たちは大幅な成長を遂げることになる。

 ところがこの世界では原作よりも早くアーノルドが国王に即位してしまった。当然冒険をすることもなく、今に至っている。




 ロバートがイヴァンから聞いた話によると、アーノルドは国王になった今でも鍛錬を怠ることはない。カーティスや四守護士たちとしょっちゅう手合わせをしている。外の世界の冒険のような経験値は見込めないが、勇者たちのレベルが少しずつでもアップしているのは良いことだ。

 ロバート将軍は、王政を去ったものの、アーノルドのことは気にかけているようだ。

 小説でも馬鹿王子だったエディアルドを最後まで見捨てなかった人だからな。

 魔族の皇子ディノが率いる魔物軍団たちと対決をすることになるのだから、あいつらにはもっと、もっと強くなって貰わないと困る。

 俺はぽつりと呟いた。

 

「……早くジュリアークの剣を勇者の元に届けないといけないな」

「ほ、お前さん。勇者と知り合いなのかの」


 アブラハムの目はまん丸になる。

 俺は頬を掻いて、明後日の方向を向きながら答えた。


「知り合いというか、勇者の兄だな。弟は今、身動きができない立場だから、俺が代わりに取りに行ってやらないとな」

「聖女が伴侶に選んだ相手が勇者と言われておるが、つい最近、ハーディン王国の国王が聖女を恋人にしたと言われておるな」

「そのハーディン王国の国王の兄が俺だ」

「な……なんと!?」


 アブラハムも、それから俺たちを案内してくれたセリオットも仰天して、思わず思っていたことを口に出す。


「第一王子と言えば、大馬鹿だって噂を聞いてたぞ? そんな風には見えねぇけどな」

「あー、その噂ここまで流れているのか」


 俺は苦笑いを浮かべる。

 隣の国にまで俺の噂が聞こえているとは。嫌な噂というのは広がるのが早いな。

 アブラハムは軽く肩をすくめてから次のように言った。


「まぁ、よくあることじゃの。この国でも第二王子は我が侭、第三王子は強欲という噂が流れておった。じゃが、実際は誰一人、王子の本当の性格など知らん」

「流れておった、と今、過去形で言っていたが、今はその噂は流れていないということか?」

「…………うむ。二人とも亡くなったからの」

「……」



 後継者争いが熾烈を極めているようだな。この国はとても栄えているが、世界有数の軍事帝国だ。

 後継者は生まれた順番は関係なく、皇子が持つ力、後ろ盾、国民の人気度など、とにかく実力がある者が皇帝の座を勝ち取るのだ。

 俺たちは身内同士で、大きな争いになる前に国を出ることが出来て良かった。


「アブラハム、ウィストとソニアの剣も打ってくれないだろうか。代金は俺が払うから」

 

 俺が言うと、ウィストとソニアはギョッとする。剣はそんなに安いものじゃないからな。名剣となると家が建つくらいの値がはることも。

 

「え、エディアルド殿下……」

「そ、そこまでして頂かなくとも」


 目を白黒させている二人の騎士に、俺は二ッと笑って言ったのだった。


「その分、二人には働いて貰わないといけないってことだ。お前たちは、俺の剣でもある。自分自身の剣にお金をかけるのだから、何の気兼ねもいらない」

「「……っっ!!」」


 ウィストとソニアは目を潤ませて、その場に跪いた。

 小説では活躍していたわりに、報われることがなかった二人だ。主人公のアーノルドは、大活躍した二人に対し、これといった報償も爵位も与えなかった。ただ自分や聖女の側に仕えるという名誉のみ。

 まぁ、頁の都合上とか、そういう理由で報償の描写が書かれていなかっただけなのかもしれないが。

 しかし小説の中のソニアとウィストはもっと報われても良いはずだ、と思っていたから、嬉しそうな彼らの表情を見たら、こっちも嬉しくなる。


「ほうほうほう、今までの剣を見せてみい」


 アブラハムはゴツゴツした手をウィストに差し出した。ウィストは背中に背負っている剣をおろし、それをアブラハムに手渡した。

 身の丈ほどある大剣は普段は背負っているが、戦う時は常に手にもっている。ちなみに急に敵が襲ってきた時に備え、すぐ抜ける剣も必要だから片手剣も腰に帯剣している。


「これほど大きな剣を扱うとは。大剣はドワーフ族の十八番じゃ。打ち応えがありそうじゃの。そちらのお嬢さんの剣も見せてみい」


 続けてソニアも帯剣している片手剣をアブラハムに見せる。


「騎士団に入団した時に頂いた剣なのですが、今の私にはどうも軽くて」

「もう少し剣に重みが欲しいのじゃな。ふむ……今の剣は細身じゃな。この形のまま、重量のある剣を作ってみようかの」

「あ、ありがとうございます」

「なんのなんの。伝説の剣を作ることが出来るのじゃ。ただで引き受けても良いくらいじゃ」


 何ともご機嫌なアブラハムの言葉に俺は思わず目を見張る。

 伝説の剣?いくらなんだも大袈裟じゃないだろうか。確かに虹色魔石というレア魔石とエディーメタルも凄い鉱石だけど。


「さすがに勇者の剣には適わないんじゃないのか?」


 俺の言葉にアブラハムはふふんと得意げに笑ってから。人差し指を横に振った。


「清浄化と攻撃力を同時に秘めた魔石であるドラゴンネストと、最強の稀少金属エディーメタルを掛け合わせた剣は、ジュリアークの剣に匹敵……使いようによってはそれ以上の剣になるはずじゃ。伝説の剣を生み出せるなど、夢のようじゃ」



 虹色魔石ってそんなに凄い力を秘めていたのか。だけど、清浄化作用があるというのは、闇の力を浄化する勇者の剣とよく似ている。

 その剣で、ディノや闇黒の勇者を倒せたらいいんだけどな。

 セリオットがその時俺の肩を叩いた。


「なぁなぁ、アブラ爺さんの店、紹介したからさ。俺の頼みも聞いてくれない?」

「今度はアブラと略すな!! このすっとこどっこいが」

「ハム爺の方が良かったか」

「略すな、と言っておるんじゃ!!」


 軽口をたたき合うセリオットとアブラハム。……話が脱線しているな。

 俺は咳払いをしてから、本題に戻す。


「で、頼みたいこととは何だ? セリオット」

「ああ、実はギルドから依頼が来ていて、ピアン古代遺跡のダンジョンに行くことになったんだけどさ。一緒に行ってくれるメンバーがいなくて困っているのよ。普段は誰かしら手が空いているんだけど、今回に限って皆仕事が埋まっているみたいでさ」


 願ってもいない申し出だ。

 俺たちもピアン遺跡に用があるからな。

それに小説の設定では、最後の扉を開ける時、セリオットの力が必要不可欠となる。

 そういえば、セリオットは仲間の裏切りによって、ピアン遺跡に置き去りにされたんだよな。


「俺たちも丁度ピアン遺跡に行きたかったから、別に構わないが、他に仲間はいないのか?」

「俺と一緒に行きたがっている奴らはいるんだけどな……そいつら、何か感じ悪いから、俺は一緒に行きたくないんだよなぁ」


 小説では一緒に行く仲間が見つからなかったから、仕方がなくそいつらと行くことにしたって書いてあったな。

 世界中の冒険者が集まる大きな都市で、一緒に行く仲間が見つからないのは妙な話だ。

 そいつらがセリオットと関わらないように、他の冒険者たちを脅していたのかもしれないな。

 何しろ裏切った冒険者たちは、最初から、セリオットを殺す為に、ある人物に雇われた冒険者たちだからな。


 俺たちがセリオットとダンジョンに行くと知ったら、そいつらが黙っていないかもしれないな。



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