悪役令嬢、神殿へいく
第97話 悩めるヒロイン~sideミミリア~
私の名前はミミリア=ボルドール。
もうすぐ十八歳の誕生日を迎える、悩める女子よ。
ここは“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”の小説の世界。
ラッキーなことに私は物語のヒロインに生まれ変わることができたの。
前世が本っ当にくだらない人生だったから、きっと女神様が私のこと可哀想だなって思ってくれたんだと思うの。
でも前世と一緒で、世の中ってなかなか思い通りにいかないものだわ。
まず最初に出会って私に一目惚れする筈だったエディアルドが、既にクラリスと婚約をしていたこと。
しかもムカつくぐらい仲がいいの。
それでもクラリスのことは忘れて、私に一目惚れするもんだと思っていたわ。
実際は一目惚れどころか、吃驚するほど塩対応だったけど。最初はツンデレかな、と思っていたけど違っていたみたい。なーんか、エディアルドとは気が合わないのよねぇ。
……まぁ、あいつは悪役だし、別にいいかって思ったわ。
本命であるアーノルドはちゃーんと筋書き通りに、私のことを好きになってくれたしね。
そうなってくると、今度は他のキャラ達を攻略したい所。
ふふふ、小説の世界だけど、ちょっと乙女ゲームやっている気分よね。
アーノルド以外の推しキャラは二人。
宮廷魔術師のジョルジュ=レーミオ
冷徹の宰相と呼ばれるようになるアドニス=クロノム
アドニスは舞踏会で少し話せたけど、ジョルジュの方はまるっきり面識がなかった。
うーん、小説では確かミミリアが王都で買い物していた時に、ばったりと出会ったのよね。
となると、やっぱ王都に出掛けなきゃ話にならないわよねー。
上手く出会えるかどうかは分からないけど、どっちにしろ買い物に行きたかったしね。
そういう訳で私は王都に出掛けることにしたの。
「聖女様、アーノルド殿下はあまり街をうろつかない方が良い、と仰せになっていましたが」
「大丈夫よ、エルダ。その為にあなたが一緒に来ているんでしょ?」
「は……はぁ」
護衛であるエルダは、小説にも登場する四守護士の一人。
中性的な美形なんだけど、心は乙女なのよねー。心が乙女じゃなきゃ、私の推しに入れていたトコだけど。
エルダはアーノルドの命令であたしの護衛に付いてくれている。まぁ、彼のファッションセンスは私も好きだけどね。ネイルも可愛いし。
ネイルはちょっと塗って貰いたい気もしたけど、“エルダは爪に絵を塗った変わり者だ”ってクラスの男子達が陰口をたたいているの聞いているから止めたわ。
私まで変わり者扱いされたくないもの。
るんるん気分で、露店に売っているアクセサリーを見ていた所、どこからともなく威勢の良いオジサンの声が聞こえてきた。
「久しぶりだな、ジョルジュ。最近見かけねぇけど何してたんだ?」
「ああ、最近禁酒してるからな。酒場には出入りしていないんだ」
「ジョルジュが禁酒!? うはーっっ!世も末だね」
「抜かせ」
ジョルジュって言ったわよね、今のオジサン。
声がする方をみると、きゃっっ……ミルクティー色の髪にグリーングレー色の垂れ目!それに上級魔術師のローブ! 間違いない、あのジョルジュだわ。
なんか大柄なオジサンに絡まれているみたいだけど、元飲み友達ってとこかしらね。
そんなむさいオジサンのことはほっといて、私に魔術を教えて頂戴! そろそろあんたから魔術を教えてもらわないといけないのよ!
「あ、どちらへ行かれるのですか!?」
驚くエルダのことはひとまず放っておいて、私はジョルジュの元へ駆け寄る。
それまでオジサンと話をしていたジョルジュは、私の方を見て首を傾げた。
「ジョルジュ先生、どうか私に魔術を教えてください」
確か小説ではそう言っていた筈……もっと前に何か言っていたかもしれないけれど、とりあえず要点を言えばOKよね。
オジサンはジョルジュに尋ねる。
「何、あの娘、お前の知り合いか?」
「いや、全然知らない」
「つうことは、一方的に恋い焦がれている奴だな。罪な男だねー」
「そんなこと言われても……俺、ガキには興味ない」
うんうん、小説でも最初は「ガキには興味ない」って言っていたわ。
でも一緒に過ごしていく内に、私のことを好きになるのよね。
「教え子ならもう間に合っているから、他の魔術師を当たってくれよ」
「嘘……あなたは教え子どころか、宮廷魔術師の友達もいない筈だけど?」
「アホか。教え子もいるし、宮廷魔術師の中にも仲がいい奴はいるわ。何、勝手に決めつけているんだ」
え、えええ……ジョルジュも小説と違う……。
私以外の教え子って誰なのよ。
ええい、ここでめげている場合じゃないわ。
「とにかく、私にも魔術を教えて!」
「だから他を当たれって。お嬢ちゃんくらい可愛かったら、喜んで教えてくれる奴がごまんといる」
「あなたもその内の一人でしょ!?」
「俺はガキには興味ないって……って、こっちに来るな! 俺は今、惚れた女と教え子以外の女は寄せ付けないことにしてんだ」
「はぁぁぁ!? 教え子って女なの!? どこの女よ!?」
「何でお前に教え子の名前を教えなきゃいけないんだ!?」
本当に誰なのよ、その教え子って。
私の他に女の教え子がいるって、許せない!!
……あっ、何、私から逃げようとしているわけ!? ちょっと待ちなさいよ!!!
「……げげっっ!? 追っかけてくるなよ!! イノシシか!? お前は」
「誰がイノシシよ!? あなたは私に魔術を教えるべきなの!!」
「何でだよ!? 他を当たれっつってんだろ!?」
こうしてしばらくの間、私はジョルジュを追いかけたわ。だって、次にいつ会えるかわからないじゃない!!
しばらく追いかけていたけど、やっぱり男の人の方が走るの早いわ。ジョルジュは人混みの中に逃げ込み、見事に撒かれてしまった。
ヒール履いていたのもあったし……うわ、最悪。ヒール折れているじゃない。
あーあ、戻らないと。
この辺、人通りは多いけれど、ちょっと歓楽街っぽい。派手な格好した女の人が歩いているし、男も柄が悪いのが多い。
ドンッッ!!
不意に誰かとぶつかったみたい。
何なのよ、もう。
私が睨みつけると、相手の男も鋭い目で睨み付けてきた。
やだ、いかにもチンピラモブキャラじゃない。
パンチパーマっぽい頭に、薄汚れた開襟シャツ、だぼついたズボン。
「おい、姉ちゃん。痛えじゃねぇか……肩の骨が折れちまったぞ」
「女の子とぶつかったくらいで、骨が折れるわけないじゃん」
「うるせぇな! 治療費払えってんだよ」
「そんなもん払えるわけないでしょ。ホントに折れたのなら、知り合いの魔術師にでも頼んで治してもらいなさいよ」
「魔術師がそんなにゴロゴロいるわきゃねぇだろ!? 金がねぇのなら、あんたの身体で払ってもらおうか」
チンピラは私の手首を捕らえてきた。
痛い!!
やだ、何なのよ。こんな奴、私の聖なる力を使えば、あっさりやっつけられるのに!
聖なる力って、どうやって出すのよ!?
私は手首を振り払おうとしたけどびくともしない。
チンピラが私の手を引っ張ろうとした時だった。
「おう!?」
野太い声だったチンピラが、急に甲高い声を上げた。
彼は私の手首をすっと離し、その場に倒れる。
え? どういうこと?
チンピラが倒れた先には、木の棒で肩を叩いているエルダの姿があった。
どうやら、その辺に落ちている棒を拾って、チンピラの後頭部を叩きつけて気絶させたみたい。
エルダは目を三角にして、厳しい声で私に言った。
「聖女様、勝手に走り出したら困ります。このことはアーノルド様に報告しておきますからね」
「…………はぁい」
私がチンピラに攫われそうになったことは、すぐにアーノルドに伝わったわ。
でも彼は私を叱ることはなく、逆に凄く心配してくれたの。
「君は聖女だし、僕の恋人だ。誰に狙われてもおかしくはないし、もっと安全な場所にいるべきだ」
こうして私は先々代の聖女であるモニカが住んでいたという、モニカ宮殿に住むことになったの。
ボルドール家よりはるかに大きな宮殿でびっくりしたわ。
でも急遽住むことが決まったから、まだ決まった使用人はいないみたいなのよね。
定期的に部屋は掃除してくれるし、食事も持ってきてくれるけど、皆、王城からこっちに通ってきているの。
せめてヘアメイクしてくれるメイドがいてくれたらいいんだけどな。
しょうがないから自分でセットしているけどね。そりゃ、前世の時は全部自分でやってたし。
最初は豪華な宮殿にわくわくしてたけど、もう三日もしたら飽きたわ。使用人達もそっけないし。
なーんか王妃教育の先生は来たけどさ、何を言っているのかよくわかんないんだよね。途中から寝ちゃったし。
小一時間したら教師は帰ったけど、そうなると誰もいなくなっちゃうのよね。
暇―!!暇すぎっっ!!
私はベッドの上でゴロゴロしていた所、扉をノックする音が聞こえたから起き上がった。
入って来たのはエルダだ。
「よろしければ、アーノルド殿下の稽古風景を見学してみませんか?」
あら、エルダってば気が利く。
アーノルドも忙しいみたいで、宮殿に住むようになってから、まだ一度も会ってないのよねー。
私は頷いて、エルダについて行くことにした。
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