第33話 羽衣さんは王立音楽学園に入りたい① ~学園ハーレム~

「ちょっとちょっと――なんでアンタたちがここにいんのよっ……!?」


 朝から自動運転バスの車内に響くありすさんの金切り声……。

 うっ、みんなの視線が……。


 何とか仲裁したいけど、残念ながら前後左右を女の子たちに囲まれてしまった僕は、身動きが取れない……。


(いつまでやるつもりだろう……?)


 さっきからずっとこの調子だ……。

 ありすさんと一緒に寮を出てバスに乗り込もうとしたら、なぜかマリさんたちが先乗りしていた。


 そしてよくわからないバトルの勃発……。

 でもありすさんの啖呵に、マリさんは動じずに反論する。


「……なんでって、救世主さまに変な虫が寄り付かないようお守りしているだけですが?」


 僕の右隣でマリさん。


「そうですとも、救世主さま!」


 僕の前でラウナさん。


「救世主さまをお守りするのが生徒会の役目です!」


 僕の後ろでミーツェさん。


「ぐっ、ぐぬぬぬ……っ!? ア、アンタたち"ムーガ"はもう関係ないでしょっ……!? 見なさいよこの男の光り輝く腕章をっ……!?」  


 僕の左隣でありすさん。

 僕の腕章を指差しながら――


「――この男はもう"ムーガ"じゃないのっ……!! "ムーガ"生徒会がベタベタしていい相手じゃないでしょっ……!! だから、さっさと、どっか行けぇ~っ……!!!!!」


 睨み合うありすさんとマリさん。


「あら、それを言うならあなただって"ルーヴォ"じゃないですか? 救世主さまと一緒に登校すること自体、おかしいのでは?」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぅっ……!!!!?」


 そんなカンジで乗客たちの冷ややかな視線を浴びながら、僕たちは正面玄関ファサード前でバスを降りたのだった……。

 はぁ……。

 朝から……。



「えっと……『G1-1』は、と――」


 ありすさんと別れた僕は、これまでとは違う階に足を踏み入れる。

 例によってフレスコ画が描かれた廊下だけど……内装の豪華さは目を見張るものがあるな。

 さすが"グレード1"の教室が並ぶフロアだ。

 

(入学したばっかりなのにもうクラス替えとか、ややこしい話だよなぁ)


 だけどルールなのだからしょうがない。

 まぁ方向音痴の僕でも、"ムーガ"の時と違って"獅子レオーネ"はクラス自体が少ないから、すぐに見つけることが出来たけどさ……。


「……ああ、ここか。よし、おはようございま――」


 だが僕が多少の緊張を持ちながらドアを開けると――

 目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。


 まるでモーゼの道みたいにまっすぐに伸びるレッドカーペット……。

 そしてその向こうに、まるで王の玉座みたいに巨大な椅子が鎮座している……。

 

(えっ……? な、何これっ……?)


 困惑していると、突然「キャー♡」という黄色い悲鳴。

 同時に、女の子たちが四方八方から飛びかかってきた……。


「いや……えっ……ちょっ……!?!?」


 もみくちゃにされてしまう僕……。


「――いらっしゃい、ロクオンジくん♡」

「――ようこそレオーネへ♡」

「――さあ、はやく"キング"の席に座って♡」


 金色の腕章をつけたクラスの女の子たちに囲まれ、教室の中央へと連行された……。

 そして例の、王の玉座に座らされ……。

 

「――な、なんですかこれ……っ!?」


 いや、っていうか――


「――こ、このクラスって……女子しかいないんですかっ……!?」

「そうよ、ウチのクラスは男子が一人だけなの!」


 ……何その看護科みたいな比率っ!?


「それで昨日まではハイフェルド君がその椅子に座ってたんだけど……今日からは、ね♡」


 ぼ、僕がっ……!?

 ウ、ウソだろっ……!?

 急な環境の変化に戸惑っていると、クラスの女子たちがせがんできた。


「――ねぇねぇ、せっかくだからさぁ、なんか弾いてよ~♡」

「――あーいいね、いいね~♡ 聞きた~い~♡」


 いや、なんか弾いてって言われても……。

 ど、どうすれば……。

 僕は仕方なく、半透明のウインドウに【らくらくヴァイオリン】を呼び出し、こう訊いた。


(……なんか"女の子たちが好きそうな曲"ってあるかな……っ?)


 途端に、検索結果が表示される。

 一番上に書いてあったのは――


(――ドビュッシーかぁ……。『月の光』ね……。じゃあ、それで……)


 僕はエクスカリバウスを肩に乗せる。

 途端に始まるバトルのフェーズ――



 名前:鹿苑寺恚

 レベル:1

 TS:998979969

 AS:987959799

 MP:3632

 スキル:≪自動成長≫≪らくらくヴァイオリン≫≪悪魔と契約≫≪神童≫≪ドンファン・リサイタル≫≪天穹のスタッカート・ヴォラン≫≪永劫のスル・ポンティチェロ≫≪バイオリンガル≫……他

 称号:≪選ばれし者≫



 【聴衆オーディエンスA:G1-1のクラスメイト】

 レベル:795

 TS防御度:79000/79000

 AS防御度:77000/77000



 ……おお、オーディエンスレベルが800近いな……。


(さすが"グレード1"だ……。G5-10のクラスメイトとは桁違いの数値だ……。でも――)


 昨日のグレニアールの聴衆オーディエンスはもっとレベル高かったよ……。それであの騒ぎなんだからさ……わかるよね?

 僕はエクスカリバウスに語りかける。


(――いいか、"手加減"だぞ、"手加減"……わかったな?)


 本気を出したら、またとんでもない騒ぎになる……。

 それこそ"世界秩序を狂わせるヴァイオリン"だ……。



「『Clair de lune』をオート演奏しますか? はい・いいえ」



 僕はおっかなびっくり「はい」を選択する。

 そして僕の弓が弦を擦ると、流れてきたのは切なく感傷的なメロ――



 ――『OOOOOOOOOOVERKILLLLLLLLLLLL』!!!!!!!!!!



(――あっ……バっ……バカっ……!?)


 だが慌ててももう遅い。

 半透明のウインドウに表示されたステータスには――



 【聴衆オーディエンスA:G1-1のクラスメイト】

 レベル:795

 TS防御度:-270000/79000

 AS防御度:-290000/77000

 


 ……で、出ちゃったっ……マイナス20万!? いや、もうほぼ30万っ……!?

 そして当然のように、白目を向いて倒れ始める女の子たち……。


 ――バタバタバタバタッ……!!!!!


 まるで機関銃で一斉掃射されたように折り重なっていく女子たちの体……。

 僕は急いで演奏をやめ、彼女たちが意識を取り戻すまで必死に介抱したことは言うまでもない……。


(はぁ……。使いこなすには時間がかかりそうだなぁ、エクスカリバウス……。そのうち死人が出そう……)


 まぁそんなカンジで、女子たちに囲まれた僕の"獅子レオーネ"生活が幕を開けたのだった。


 それから数日後に、に再会することになるなんて、この時はまだ夢にも思わずに――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る