第544話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――七番―――センター、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。


「ある意味ここで朋也様が点が取れるかどうかで試合が大きく変わるな―――」


 ベンチの中野監督がサインを送る。

 灰田が確認して、ヘルメットに指を当てる。

 切間が佐伯を睨む。

 灰田が構え、佐伯がサインを送る。

 頷いた切間がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛んでいく。

 灰田がバントの構えを取る。


「しまった! スクイズ!」


 佐伯がハッとする。

 打者手前でボールがカーブよりも浅く左に曲がりながら落ちていく。

 灰田がバットにボールを当てる。

 カコンッと言う金属音と共にボールがファースト方向に転がっていく。

 三塁の錦がホームベースに走る。

 陸雄が三塁へ向かい―――星川が二塁へ走る。


「ちきしょう! やり返しやがって!」


 マウンドの切間がボールを捕りに前進する。

 佐伯が立ち上がる。

 切間が転がるボールに追いついたとき―――。

 錦がホームベースをスライディングしながらタッチする。

 大森高校に10点目が入る。

 切間が走る灰田の着くファーストに送球する。

 ファーストが捕球して、灰田にグローブでタッチする。


「―――アウト!」


 塁審が宣言する。

 その間に陸雄が三塁を踏み。

 星川が二塁を踏む。

 ベンチの中野監督が満足げな表情をする。


「ここで振出しに戻した―――見事なスクイズだ! 愛しの朋也様」


 灰田がベンチにバットを持って戻っていく。


「スクイズってのが恰好つかねぇなぁ。まぁ、同点にしたから良いけどよ」


 灰田がそう言って、ベンチに戻った。

 切間がマウンドに戻り、ファーストからボールを貰う。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――八番―――サード―――大城君―――」


 大城が右打席に立つ。


「メンソーレ! 今度は柊や大森高校の女子のパンツを覗きたいサー!」


 大城がバットを構えながらよそ見をする。

 佐伯が黙ってミットを構える。

 切間が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 真ん中にボールが飛んでいく。


「メンソーレ! 覗きながらスイングするサー」


 大城がスイングする。

 バットの上部にボールが当たる。


「嘘! あいつも当てた!」


 三塁の陸雄が声を漏らす。

 カコンッと言う音でボールが浮く。


「フッ、真ん中の遅めのストレートボールとは言え、まぐれ当たりか―――」


 キャッチャー上空にボールが浮く。

 佐伯が立ち上がり、一歩後ろに後退する。

 そのままミットでフライを処理する。


「―――アウト!」


 球審が宣言する。


「メンソーレ! 次からマジモードで行くサー」


 大城が打席から離れる。

 佐伯が返球する。

 切間が捕球する。


「一番遅めに投げたけど、結果として二球余計に投げずに済んで楽になったな―――」


 切間がそう言って、構える。




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