第537話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――六番―――」


 六番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。

 陸雄がぎこちなく頷く。

 打者が構える。


「リクオ!」


 ハインが声を上げる。

 呼ばれた陸雄がハッとして、構える。

 少し間を置いて、セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 その時に―――。

 二塁の佐伯が三塁に走る。


「―――盗塁!?」


 センターの灰田が声を出す。

 内角高めにボールが飛んでいく。


(マズい! 俺がリクオに送ったのはチェンジアップだ。間に合うか?)


 打者が見送る。

 ボールが半個分落ちて、ハインのミットに入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 その瞬間、ハインが立ち上がって送球する。

 ショートの紫崎が捕球して、佐伯にタッチしようとする。

 佐伯がスライディングをして、躱す。

 そのまま三塁ベースにスパイクを当てる。

 盗塁は成功した―――。

 スコアボードに110キロの球速が表示される。

 ランナーが一、三塁になる。

 ショートの紫崎が陸雄に送球する、

 陸雄が捕球して、弱々しい背中を見せる。

 ハインが座り込む。


(ここでせっかく上げた陸雄の調子を落とし続けるわけにはいかない―――)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が少し間を置いて、頷く。

 打者が構える。

 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 打者がスイングする。

 ボールが変化せずにバットの上を通過する。

 ハインのミットにボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに135キロの球速が表示される


(高速スライダーに見せたストレートが効いている。リクオ、残りワンストライクだ―――)


 ハインが返球する。

 陸雄が捕球して、呼吸を整える。

 陸雄の心臓が高鳴っていた―――。





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