第534話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――九番―――ライト―――駒島君―――」


 駒島が右打席に立つ。


「満塁でツーアウトの場面でこのワシの出番か―――真の主人公らしく決めてやるか!」


 そう言って、駒島が構える。


「ワシの物語が今始まる!」


 佐伯が無言でミットを構える。

 切間がダルそうにセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。


「開幕じゃあー!」


 駒島がやけくそ気味にスイングする。

 真ん中にボールが飛んでいく。。

 僅かにバットの上部にボールが当たる。

 

「舐められているとはいえ―――また打ちやがった!」


 一塁の灰田が声を上げる。

 ボールがピッチャー上空に浮かぶ。

 切間が足を動かさずにグローブを上に出す。

 そのままボールが吸い込まれるように入る。


「―――アウト! チェンジ!」


 球審が宣言する。

 ピッチャーフライで六回表が終わる。

 残塁していたメンバーがベンチに戻る。

 ベンチの中野監督が考え込む。


「もしかしてあの駒島はしっかり練習させれば凄い打者になっていたんじゃないのか? 私の考えすぎか?」


 古川がスコアブックを書き、答える。


「まず練習をサボることを念頭に置いているので、潜在能力がいくらあってもすごい打者は出来ないでしょう」


「そうか、そうだな―――変なこと考えたな。さぁ、守備だ守備」


 中野監督が手を叩いて、メンバーに守備準備をさせる。

 六回表は6対8で大森高校の劣勢で終わる―――。



 大森高校のレギュラーが守備位置に着く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「六回裏―――香月高校の攻撃です。三番―――レフト―――三岳君―――」


 三岳が左打席に立つ。

 陸雄がボールを握って、マウンドで構える。

 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷く。

 三岳が構える。

 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく

 三岳がタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に小さく曲がる。


「―――その軌道は詠めている」


 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。


(本調子になったリクオの高速スライダーも打つか―――ミタケに恐怖心が無いのが打球を強めている)


 ハインが目を細める。

 ライト方向にボールが高く飛ぶ。

 センターの灰田が走る。

 バットを捨てて、三岳が一塁に走る―――。

 外野フェンスにボールが当たって、地面に落ちる。

 灰田が捕りに走る。

 三岳が一塁を蹴り上げる。

 そのまま二塁に走っていく―――。

 ボールを拾った灰田がセカンドに送球する。

 九衛が塁を踏んで捕球体制に入る。

 切間が余裕を持って、二塁を踏む。

 その後にボールが九衛のグローブに入る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 三塁側スタンドから歓声が上がる。

 三岳がツーベースヒットを決めたのだった。


「コラ! バカ職人! また決められてんじゃねーぞ! お前は歩くバッティングセンターか?」


 セカンドの九衛が陸雄に送球する。


「うっせぇなぁ! 誰がバッティングセンターだ! 今に見てろよ」


 捕球した陸雄が声を上げて、キャッチャーボックスを見る。



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