第495話


 ツーアウト、ランナーが二塁の場面―――。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――、一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 佐伯がサインを送る。

 切間が不機嫌そうな顔して、頷く。

 ベンチの中野監督がサインを送る。

 ハインがサインを見た後にヘルメットに指を当てる。

 切間とハインが構える。


(一球目から脅かしてやる―――)


 切間がそう思い、セットポジションに入る。


(ナカノ監督のサインの通り―――俺も予想はしていたが、キリマは必ず投げてくる)


 ハインがジッと観察する。

 切間の指先からボールが離れる。

 外角と中央のコースの中間位置にボールが高めで飛んでいく。

 ハインがタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に曲がりながらスライダーよりも深く落ちていく。

 ハインがそのスラーブをバットの軸で捉える。


「なにっ! 初球のスラーブを!?」


 切間が驚く。

 カキンッと言う金属音と共にボールが高く飛ぶ。


「やっぱハインはすげぇな―――」


 そう言って、灰田が三塁に走る。

 ハインがバットを捨てて、一塁に走る。

 ボールがライト奥の外野フェンスに当たる。

 ライトが追う中でボールが落ちていく。

 灰田とハインが余裕を持って、走る。

 ライトが拾い上げて、一塁に送球する。

 ハインが一塁を踏んで止まる。

 灰田も三塁を余裕を持って、踏む。

 ファーストが捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 一塁側スタンドから歓声が上がる。

 スタンドの柊が嬉しそうにグラウンドを見る。


「このまま行けば追加点で前半から有利に試合が運べる。曇り空が気になるけど―――雨が降る前に試合が終わるはず」


 そう言って、柊がカバンから出したジュースを飲む。

 ハインが一塁―――灰田が三塁のまま試合が続く。

 ファーストからボールを受け取った切間が佐伯を睨む。

 佐伯が黙って、ミットを構える。


(切間さん―――打たれはしましたが、次の打者を抑えれば俺達の攻撃に変わります。俺のリードを信じてください)


 そんな佐伯の思いの中―――ウグイス嬢のアナウンスが流れる。




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