第487話


「陸雄君―――大丈夫ですよ。まだ点が入ってませんし、落ち着いていきましょう!」


 そう言った星川が陸雄に送球する。

 陸雄がキャッチして、頷く。


(とは言っても―――どうもストレートにいつもより勢いがない気がする。まだ本調子じゃないのかな? ハインも気付いているだろうしな)


 陸雄が構える。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「香月高校―――三番―――レフト―――三岳君―――」


 三岳が左打席に立つ。

 ハインが三岳をチラリと見る。


(スイッチヒッターの三岳―――やはり右投げのリクオにに対して、有利と考えて左に立ったか)


 ハインが陸雄に視線を戻す。


(まだ一回裏―――陸雄は本調子じゃない。加えて不利な状況だ。ここは―――)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷いて、三岳が構える。

 セットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる―――その時―――。

 二塁の切間が走る。


「ああん? スチールだぁ!?」


 セカンドの九衛が大声を出す。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 三岳が見送る。


(不味い―――リクオの遅めのストレートを読んでいたのか?)


 ハインがハッとする。

 ボールがミットに入るとハインが立ち上がる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 ハインが三塁のカバーに入った紫崎を確認する。

 そして送球する。

 切間が三塁を踏む前に―――紫崎が捕球する。

 そのまま切間にタッチしようとする。


「うおっ! あっぶね!」


 切間がギリギリでグローブ越しのタッチを走って、躱す。

 そのまま三塁を踏む。

 大城はアホ面でボケッとする。

 紫崎が三塁を念のために踏む。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 スコアボードに107キロの球速が表示される。


「フッ、初球の緩急付きのストレートを読まれるとは―――して、やられたということか―――」


 紫崎が陸雄に送球する。

 陸雄が悔し気にキャッチする。

 ノーアウトでランナー、一、三塁―――。

 点が入ってもおかしくない状況だった。


(陸雄に遅めのストレートを要求させたが―――やはり110キロ代に投げ込めていない。不味いな―――)


 ハインが座り込む。

 陸雄の心臓が僅かに高鳴る。


(ここから速球に投げ込む多いけど、ホームスチールはない。けれどランナーが一塁にもいる。迂闊に遅い球が投げれない気配だ―――)


 陸雄がポタリッと汗をマウンドに一滴落とす。



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