第482話


 九衛が走るを緩めて、ランニングに切り替える。

 二人が各塁を踏んでいく。


「がっはっはっ! 俺様にスラーブ打っておけば追加点もなかったかもなぁ!」


 笑いながら九衛がホームベースを踏む。

 佐伯が立ち上がったまま―――握りこぶしを作って、震えながら耐える。

 大森高校にまず2点目が入る。

 ネクストバッターサークルの陸雄が立ち上がる。


「九衛、よくやった! って! 通り過ぎるな! 無視かぁー!」


 陸雄が通り過ぎる九衛に怒鳴る。

 その間に錦がホームベースを踏む。

 大森高校に3点目が入った。

 球審から佐伯が新しいボールを貰う。

 切間が睨みつけるように打席を見る。

 とばっちりを受けた佐伯が送球する。

 切間が捕球して、構える。

 イラつきが見えていた。

 その間にウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――五番―――ピッチャー、岸田君―――」


 陸雄が右打席に立つ。

 中野監督がサインを送る。

 陸雄がヘルメットに指を当てる。

 そして構える。


(佐伯―――こいつと六番だけリードしろや。お前がちゃんとリード出来るんなら、任せる)


 佐伯が頷いて、サインを送る。

 切間が頷いて、投球モーションに入る。

 陸雄がジッと観察する。


(アクアワールドの借りをここでしっかり返してやるぜ! 切間!)


 切間の指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 陸雄がスイングする。

 ボールがバットの上を通過する。


(―――ボールがかすった! カーブじゃねぇのかよ!)


 佐伯のミットにそのままボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに130キロの球速が表示される。

 ベンチの中野監督が意外そうに話す。


「配球を変えて来たな。初球から変化球を投げていくパターンだったが、捕手のリードに従ったのか?」


 古川がスコアブックを書きながら答える。


「錦君のホームランで捕手に従ったんでしょう。一時的にバッテリーの信頼関係が生まれているみたいですね」


 そう言って、古川がマウンドを見る。

 佐伯が返球する。

 切間が受け取り、構える。




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