第474話


 試合当日の朝―――。

 居候している切間の家でベッドに二人の男女がいる。

 切間が全裸から起き上がり―――ユニフォームに着替える。

 両親不在の家で娘であり切間の彼女が裸のままシーツで下半身を隠す。


「もう行くの~?」


 彼女の言葉に切間は大荷物をスポーツバックに入れて、準備を終える。


「まぁ、このまま寮に帰るのも面倒だしな。友達の家に泊まるって、学校に連絡入れてるから長居も出来ねーんだわ」


 そう言って、切間がスポーツバックを背負いこむ。


「昨日のやつ、すごく良かった。試合終わったらまた今度来てよ。パパとマ旅行中だからさ」


 切間の彼女がそう言って、裸のまま立ち上がる。


「まー楽に勝ってやるよ。応援は要らねぇから―――ゆっくり勉強でもしとけよ」


 そう言って、彼女とディープキスをする。


「あっ……今ので私ちょっと……」


「昨日したばかりだろ? お預けさ―――じゃ、行ってくるぜ」


 そう言って、切間は彼女の実家から出ていく。

 試合開始の時は刻々と近づいていた。



 陸雄達がバスで揺れながら、中野監督の助言を聞いていく。

 その間に―――柊がスマホを見る。

 高校野球のトーナメント表を見る。


(麻衣已工業(まいのみこうぎょう)―――勝ったかな? あっ、五回戦に勝ってる。今日勝って、次に勝てば彼に会えるかもしれない)


 柊がそう思い、スマホを閉じる。

 ちょうど中野監督が説明を終える。


「―――以上だ。切間の投球と野手の連携は注意しろ。投球練習で対策が出来ているとはいえ―――油断はするなよ!」


「「はいっ!」」


 メンバーがそう言った後でバスが止まる。


「試合は後少しで始まる。私は少し用事があるから―――降りたらバス前で待ってろよ」


 中野監督がそう言って、灰田が質問する。


「中野―――用事ってなんだ? …………もしかして今度の対戦校と関係あるのか?」


「―――トイレだ。朋也様も一緒に行くか?」


 中野監督の返答で灰田が謝る。

 メンバーが和んでバスを降りていく。



 バスを降りて、試合が始まる前の時間―――。

 球場前で中野監督が不在の間、陸雄達がバス前で集合する。

 その時に相手校と鉢合わせる。


「げっ! 駐車先―――すげー近くじゃん」


 陸雄が声を漏らす。

 目が合った切間が陸雄を鼻で笑う。

 陸雄達の前に近づいて、絡む。


「上がってきたのはお前たちか、紫崎。あの時はああ言ったが、所詮は一球勝負。まぐれと思い込んでいるお前に打席勝負で嫌というほど兄の陰に隠れる弱者だと確信させてやろう」


 陸雄を無視して、紫崎を切間が睨む。


「フッ、スラーブもスライダーもカーブも攻略して見せる」


 ハインが無言で切間をジッと見る。

 

「やい! 切間! 俺にも何か言うことあるんじゃねーのか?」


 陸雄がズイッと前に出る。


「ああ、あの時の女にのぼせてるアホ猿か」


「んだと! こらぁ!」


 陸雄が怒鳴る。


(俺よりチンピラ臭い言動じゃねぇか―――陸雄、よっぽどムカついてたんだな)


 灰田が陸雄を横目で冷や汗をかく。

 切間が腕を組んで話す。


「あの時の女でのぼせてる野球の猿が俺たち四強の一つ―――私立香月高校(かげつこうこう)に勝てるとは思えないが、全力でやってやろう」


「猿じゃねぇ野球小僧だ。お前だって彼女とデートしてたろ?」


 陸雄が言い返す。


「―――猿と人のデートを同列にするなよ」


 そう言って―――切間が冷笑する。

 陸雄が苛立ち切間に噛みつく。


「この野郎―――俺どころか清香を侮辱しやがって、許せねぇ! 俺も勝つつもりで来たんだ―――絶対に負けねぇよ」


 中野監督が戻ってきたころに―――切間がチームと一緒に試合場に入っていく。



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