第433話


「俺が打たなきゃ、星川の二塁打もこの試合では無駄になっちまう。ハイン達まで繋げないとな」


 そう言った灰田が打席に移動する。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――七番―――センター、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。

 中野監督がサインを送る。

 灰田がヘルメットに指を当てる。

 速水が集中する。

 それを見た山田がサインを出すのを止めて、ミットを構える。

 灰田が構える。

 速水が早めに投球モーションに入る。


(タイミング早いな? 中野の言うようにアレを投げてくるのか)


 指先からボールが離れる。

 リリース直後にボールが大きく落ちる。


「パームボール!」


 灰田が意外な声を出す。

 ボールが揺れながら外角やや低めに落ちていく。

 灰田が見送る。

 山田のミットにボールが入る。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに106キロの球速が表示される。

 山田が返球する。


(中野―――投手任せなら次は必ずアレが来るんだろ? 打てるかどうか怪しいけどよ)


 灰田が構える。

 捕球した速水がすぐに投球モーションに入る。

 二塁の星川がマウンドに注目する。


(今―――僕のあのスローな感覚が消えた。一体なんだったんですかね?)


 星川がハッとした時には、速水の指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 灰田がタイミングを合わせて、スイングする。


「っち! 少し位置が―――!」


 灰田が声を漏らした沖には―――。

 変化しないストレートがバットの軸と先端の中央に当たる。

 カコンッという金属音と共にボールが浮き上がる。

 ファーストの久遠寺が後方に走って、落ちるボールをグローブで捕球する。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。


「パームで感覚が一時的に狂ったか、変なとこに当てちまった。すまねぇ、中野……」


 灰田が悔し気にベンチに戻っていく。

 ファーストの久遠寺が速水に送球する。


「……一年ながらに良く働くやつさ……お前の援護に『R』を送りたくなった……」


 速水がそう呟きながら捕球する。


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