第410話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――。一番―――キャッチャー、ハイン君―――」


 ハインが右打席に立つ。

 速水が構える。

 中野監督がサインを送る。


(ハイン。変化球なら迷わず振れ。そうすれば後半から速水はストレート中心に組み替える。ピッチャーの配球は同じことをしようとしない)


 ハインがそれを見て、ヘルメットに指を当てる。


(ここは変化球多めでいくじゃんか)


 山田がサインを送る。

 速水が頷く。

 ハインが構える。

 サウスポーの速水が投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。


「―――ッ! 高めに投げちまった……冗談じゃねぇ……」


 外角やや高めにボールが飛んでいく。


(相手の失投か? 投球がズレている気がする―――)


 ハインがタイミングを合わせて、スイングする。

 打者手前でボールが左に浮いてから落ちる。


(高めのシンカー! 打てる!)


 バットの芯にボールが当たる。


「……くっ……!」


 速水が唇を少し噛む。

 カキンッという金属音と共にボールが左中間を抜ける。

 バットを捨てたハインが一塁に走る。

 レフト手前でバウンドしたボールをレフトがグローブで捕球する。

 その頃にはハインが一塁を踏んでいた。

 進塁する気配もないので―――レフトはファーストに送球する。

 ファーストの久遠寺が捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


「速水キャプテン。気持ちで負けないように次から抑えていきましょう! 僕も頑張って援護しますから―――」


 久遠寺の言葉に速水が捕球して、話す。


「……冗談じゃねぇ……あんな長野のキモデブの挑発が効いてるわけじゃないさ……!」


「あははっ―、キャプテン繊細ですもんね」


 久遠寺がニコニコしながら軽く笑う。


「解ってるなら言うな……俺に対してのコミュニケーションがcrazy(クレイジー)だぜ……」


 速水が打席を見る。

 一塁のハインがリードを取る。



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