第402話


 ライトがボールを拾う。


「がっはっはっ! 5点目だぜ! 気分良いぜぇ!」


 九衛がホームベースを踏んで、飛び跳ねる。

 錦が三塁を踏む。

 ライトが久遠寺に送球する。

 星川が塁を踏む―――。

 ファーストの久遠寺にボールがグローブ近くまで飛んでいく。

 そしてボールをキャッチする―――。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 一塁側スタンドに歓声が上がる。

 スタンドの柊が胸に手を当てる。


「これでランナーが一、三塁で点差が2点差―――本当にすごい熱い試合だわ」


 久遠寺が速水に送球する。

 速水が無言で捕球する。

 ベンチに九衛が戻ってくる。


「がっはっはっ! 見たか紫崎? 星川君はスクリュー打つのが得意になったようだ。めでたいのう!」


 九衛がそう言って、給水機から紙コップで水を注ぐ。


「フッ、スクリュー打ちに関してのみ先を越されたな。星川は将来良い打者になるかもな」


 紫崎がそう言って、グローブを着ける。

 同じくベンチの陸雄が興奮気味にグラウンドを見渡す。


「俺だって、打てるはずだ―――いや、打てるようになってやる!」


 陸雄が闘志が湧く。

 そしてウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「大森高校―――七番―――センター、灰田君―――」


 灰田が右打席に立つ。

 ベンチの中野監督がサインを出す。


「速水は変化球に頼りすぎている。つまりアレも投げてくる。朋也様―――そこが勝負どころだ」


(わかったぜ。中野の言うとおりになるんならそれを狙う)


 灰田がヘルメットに指を当てる。


(ここは直球中心で組み立てるじゃんか)


 山田がサインを送る。


「……冗談じゃねぇ……この打者は全て俺に任せるさ」


 速水が首を振る。

 山田がサインを止めて、ミットを構える。

 速水が投球モーションに入る。

 灰田がジッと観察する。

 指先からボールが離れる。


(―――違う。ここを打ってはダメだ)


 灰田が見送る。

 打者手前でボールが左に急激に落ちる。

 ―――スクリューだった。

 山田のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される。

 山田が返球する。

 速水が受け取り構える。

 灰田が構える。

 速水がすぐに投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 そして―――。

 リリース直後にボールが大きく落ちる―――。


(来た! 中野が言ったパームボール!)


 ボールは揺れながら真ん中やや低めにボールが飛んでいく。

 灰田がタイミングを合わせて、フルスイングする。

 バットの軸にボールが当たる。


「この瞬間を待ってたぜ!」


 灰田の声と共に―――ボールが飛んでいく。

 バットの金属音と共にボールがピッチャー上空を越えていく。



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