第370話

 打者の山田がホームベースを踏んだ時には白石高校に4点目が入っていた。

 ハインが審判から新しいボールを受け取る。

 ショートの紫崎が俯く灰田に声をかける。


「フッ、まさか俺達が大量の追加点で逆転するのに4点でもう諦めるのか?」


「紫崎―――けど…………」


 灰田が顔を上げて言いかけた時にセカンドの松渡が割って入る。


「4点も入ったか、4点だけ抑えたか~。考えの問題だよ~。九衛に煽られちゃうよ~」


 ファーストの星川が声を上げる。


「灰田君。肩作りにのハンデとしては丁度良いですよ。九衛君の言うエンジョイ炎上中じゃないですよー!」


「思いっきり言ってるじゃねーか―――」


 灰田が僅かに苦笑して、肩の力を抜き―――リラックスする。


「―――トモヤ」


 灰田が声を出して、灰田を振り向かせる。

 そのままハインが送球する。

 灰田が捕球する。


「少しずつ制球から上げていくぞ。緩急は意識するな。練習を本番―――本番を練習だと思え」


 ハインの言葉に頷く。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「白石高校―――五番―――」


 五番打者が打席に立つ。

 ハインがサインを送る。

 灰田が指の力を調整して、投球モーションに入る。


(ハインの言うように―――制球力から意識して…………投げる!)


 灰田の指先からボールが離れる。

 内角の中央にボールが飛んでいく。

 相手の打者がスイングする。

 タイミングがやや遅めでハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 五番打者が空振ったバットを戻す。


(思ったよりも遅かったな―――久遠寺の時は早く見えたが…………)


 五番打者が考え込む。

 スコアボードに115キロの球速が表示される。

 ハインがいつも通りに冷静な顔のまま返球する。

 灰田が捕球して、一息つく。


(アウトカウントどころかストライクカウントを一つ取るのがこんなにも重いとは思わなかったぜ)


 灰田が考えるのを止めて、構える。

 ハインがサインを送る。

 灰田が頷いて、投球モーションに入る。


(次に緩急を作っていく―――!)


 灰田の指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく


(さっきより早いな―――コースが甘い。この球速なら打てる!)


 五番打者がスイングする。

 バットの軸にボールが当たる。

 カキンッという金属音と共にボールがファースト方向にライナーで飛ぶ。


「しまっ―――」


 五番打者が声を漏らした時には―――ファーストの星川がライナーを捕球した。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。


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