第326話

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「淳爛高等学校―――三番―――」


 三番打者が打席に立つ。

 ベンチの監督がサインを送る。


「速球中心なら得意コースに絞っていけ―――! 一塁に出たら牽制は出来ん、意地でも出塁しろ!」


 そのメッセージを三番打者が見て―――頷く。

 ハインがサインを送る。

 打者が構える。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。


(確かにタイミングが取りにくいな―――)


 相手の打者がそう思った時に―――。

 松渡の指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。

 打者が見送る。

 ハインのミットにボールが収まる。

 ―――ストレートだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに133キロの球速が表示される。


(まだ二球あるが―――緩急つけてくるだろう―――)


 三番打者が構える。

 ハインが返球する。

 松渡がキャッチする。


(ハジメ―――打者心理をここで突くぞ―――)


 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 サウスポー独特のフォームで投げ込む。

 打者がタイミングを合わせようとするが―――。

 僅かにタイミングをズラして、松渡の指先からボールが離れる。

 内角低めにボールが飛んでいく。

 相手の打者のバットが僅かに動くが―――。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに132キロの球速が表示される。


(さっきとほぼ同じ球速なのに―――まだ目が慣れない―――。追い込まれたか、出塁しねぇと厳しいぞ!)


 三番打者が構え直す。

 ハインが返球する。

 松渡がキャッチする。


(ハイン~。こっから、どうすんの~?)


(バットが動いていたが、目が慣れていない。敢えてここは―――)


 考え終えたハインがサインを送る。

 松渡が頷く。

 サウスポー独特のフォームで投げ込む。

 一球目と同じタイミングで―――指先からボールが離れる。


(取った! 同じ球速で舐めんなよ!)


 外角低めにボールが飛んでいく。

 三番打者がタイミングを合わせて、スイングする。

 しかし―――僅かにボールが速い。

 打者がボールを当て損ねる。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに141キロの球速が表示される。

 ―――ツーシームだった。

 ベンチの陸雄が立ち上がる―――。


「上位打線を……あっという間に―――ツーアウト! 凄いっ!」


 陸雄が安心感を覚える。

 同じベンチの中野監督がフッと笑う。


「フフッ……まさかストレートの三段階の緩急付きの球速で抑えるとはな―――。だが、次は大砲だ―――。頼むぞ、ハイン―――」



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