第315話

 灰田がスライダータイプのもう一つの変化を錦に詳しく聞く前に―――真伊已が二球目をセットポジションで投げ込む。

 ベンチの皆がそれを見る。

 リリース直後にまた縦に大きくボールが落ちる。

 そのまま内角の中央にまた落ちていく。

 ハインが見送る。

 捕手のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 114キロの球速が表示される。

 捕手が返球する。

 真伊已が捕球する。


「真伊已! あと一つだ! 2点差くれー俺っち達で取り返す!」


 ショートの張元が声を出す。

 真伊已は集中して、ボールを握る。


(マイノミの二球目は今までのパームボール……一球目とは違う。パームボールは多用すると、肘を痛めるとはいえ―――オレが捕手なら次は何を投げさせる?)


 ハインが構える。

 捕手がサインを送る。


(六回裏の状況―――まだイニングは残っている)


 ハインが考察しながら、構える。

 真伊已がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。


(パームボールは肘を痛めやすい。長期戦を考えれば―――)


 ハインがスイングする。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 バットの芯のやや上ににボールが当たる。


(高めの錯覚を覚えさせる直球を投げてくる―――!)


 カキンッという金属音と共にボールが高く飛ぶ。

 真伊已が驚く。


「視覚を狂わせられないだと―――!」


 ボールがセンター方向に高く飛んでいく。

 ハインがバットを捨てて、一塁に走る。

 センターがボールを追っていく。

 スタンドの緑の壁にボールが当たる。

 そのままボールが地面に転がっていく。

 センターがボールを持って、送球する。

 ハインは一塁を踏み終える。

 ファーストに遅れて、ボールが捕球される。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 真伊已が悔し気にハインを見る。


「パームボールは攻略されていないが―――リードは読まれていましたか。流石は捕手をやるだけのことはある」


 真伊已がぼそりとそういって、ファーストからボールを受け取る。


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