第302話


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「五回裏―――大森高校の攻撃です。一番―――キャッチャー、ハイン君」


 ハインが右打席に立つ。

 中野監督がサインを送る。


(ナカノ監督も同じ考えか―――)


 ハインがヘルメットに指を当てる。

 真伊已が構える。


(この強い風ではパームボールが制球も含めて、使えない。それに完全にパームボールが攻略された状況でもない)


 捕手がサインを送る。


(向こうも気づいている―――パームボールは温存していきますかね)


 真伊已が頷いて、セットポジションに入る。

 ハインがジッと観察する。


(マイノミの変化球は緩急付きのカーブ系のみ―――風の強さからクサいところにはボール球の確率が高い)


 指先からボールが離れる。

 外角の低めのやや内側にボールが飛んでいく。


(つまり―――捕手のリードは高い確率で―――)


 ハインがスイングする。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちる。


(初球だけストレートを思わせえるカーブを投げ込む!)


 バットの軸にバールが当たる。


「―――ッ! 芯近くの軸に当ててきている!」


 真伊已が言葉を漏らす。

 ハインが打球を引っ張る。

 ボールは左中間に飛んでいく。

 ハインがバットを捨てて、一塁に走る。

 レフトとセンターの中間の位置にボールが落ちる。

 フェアになり、レフトがセカンドに中継する。

 セカンドが捕球した時には、一塁をハインが蹴った後だった。

 セカンドが無言でファーストに投げる。


「―――セーフ!」


 当然のように塁審が宣言する。

 蹴り終えたハインが一塁に戻っていく。


(次の打者のタカシなら、俺を二塁に進塁させてくれる)


 ハインはそう思い、塁を踏む。


「大森高校―――二番、ショート―――紫崎君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 ファーストから既にボールを受け取った真伊已は構える。

 捕手がサインを送る。


「フッ、ハインや九衛と比べると俺はそれほど警戒されないか―――」


 紫崎がそう呟いて、構える。

 真伊已が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角低めにボールが飛んでいく。

 紫崎が早めにスイングする。

 バットの先端の下にボールがかすめる。

 そのまま捕手のミットにボールが収まる。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに129キロの球速が表示される。


「フッ、風の押し出しで球速が上がるから、早めに振ったつもりだが―――コースが風でズレるとはな」


 紫崎が構え直す。


(真伊已。こいつにストレートは効いている。この打席は速球中心で行こう!)


 捕手が返球する。

 真伊已が構えて、捕手のサインを見る。


(確かに紫崎相手にはそれがベターかもしれませんが、試したいことがあるので、一球だけ頼みます)


 真伊已が首を振る。

 捕手が意図が読めたのか、別のサインを出す。

 真伊已が頷いて、セットポジションに入る。

 紫崎がジッと見る。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。

 紫崎が白線を超えないように後ろ足を下げる。

 打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。


「フッ、そこは打ち上げるとでも思ったのか?」


 紫崎が早めにスイングする。

 バットの芯の近くにボールが当たる。

 真伊已のスローカーブを金属音と共に打ち抜く―――。

 ボールは右中間に飛んでいく。

 ハインが二塁に走る。

 紫崎がバットを捨てて、一塁に向かう。

 強風でボールが左にそれていく。

 ライトが捕る位置を外して、三歩奥にボールが落ちる。

 この瞬間―――フェアとなる。

 カバーに入ったセンターがボールを捕る。

 そのまま一塁に送球する。

 ハインは余裕を持って、二塁を踏む。

 塁を踏んだファーストが捕球体制に入る。

 捕球より前に紫崎が一塁を蹴り上げる。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 ランナーが一、二塁になる。




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