第296話


 ネクストバッターサークルに相手の四番がアドバイスを送る。


「相手の投手はカーブ以外に早いスライダーとそれより遅めのスライダーを持っている。打てる速度だけに絞っていけ」


 四番の助言に五番打者が頷いて、打席に移動する。

 ハインからボールを受け取り、陸雄が空を見上げる。

 青空の中で大きな雲が映る。


(この雲だと大きいの打たれたら、白い雲で白球と同化して外野手がボール落とすかもな―――)


「仮に打たれても―――なるべく内野に打たせてやんねーとな」


 陸雄が空からキャッチャーボックスに視線を変える。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


「淳爛高等学校―――五番―――」


 五番打者が打席に立つ。


(リクオ―――ランナー二人でツーアウトとはいえ、まだクリンナップ打線だ。しっかり投げ込め)


 ハインがサインを送る。

 陸雄が頷く。

 相手の監督がサインを送り、五番打者が頷いて―――構える。


(キャプテンの助言を生かさないとな―――監督は一球待てと言ってるしな―――)


 陸雄がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 内角高めにボールが飛んでいく。

 打者のバットがピクッと動く。

 だが、振らずに見送る。

 ハインのミットにボールが収まる。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに120キロの球速が表示される。


(ボール球だが、やけに遅いな。スライダーを初球から投げてこないのか?)


 五番打者がハインを見た後で、マウンドに視線を移す。

 ハインが返球する。

 陸雄がキャッチして、構える。

 ハインが素早くサインを出す。

 五番打者が構える。

 セットポジションで陸雄が投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角の中央にボールが飛んでいく。


(同じ速度―――捉えた!)


 五番打者がスイングする。

 打者手前でボール半個分落ちる。


「チェンジアップ? しまっ―――!」


 打者のバットの軸下にボールが当たる。

 セカンドライナーにボールが低く飛ぶ。

 九衛がかがんでグローブを前に出す。

 ボールがそのグローブの位置に捕球される。


「―――アウト! チェンジ!」


 審判が宣言する。

 五番打者がセカンドライナーでアウトになる。

 九衛が陸雄に送球する。


「九衛―――サンキュ! 頼りになるぜ!」


 陸雄がそう言って、ボールをマウンドに置く。


「登板前のセカンドしてたチェリーとは違うんだよ! チェリーとはなぁ! がっはっはっ!」


「前言撤回―――お前マジでウザい。 ったく、次打ちに行くぞ!」


 陸雄達がベンチに戻っていく。

 四回表が10対11のまま無失点で終わる。

 大森高校の優勢だった。


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