第292話


 真伊已がボールをマウンドに置く。


(これが俺のもう一つのパームボール―――縦に落ちて横回転で斜めに少しだけ落ちていく。スライダータイプに近い独自のもう一つのパームボール……)


 真伊已がベンチに戻っていく。


「しかし、こいつを序盤で一球だけ使うことになるとは……厳しい試合になりますね」


 真伊已がそう言って、グローブを外す。


「このスライダータイプは俺もまだ使いこなせていないアレも含まれているというのに―――。日々の練習の肘の負担が悪くなければ、使いこなせるはずでしたが……贅沢も言えませんか……」


 同じ頃に星川がベンチ戻る。


「すみません。僕が追加点のチャンスを潰してしまった」


 紫崎が星川の肩に手を添える。


「フッ、気にするな。まだ6回もある。また打順が回ってくるさ。守備の準備をしておけよ」


「わかりました。ありがとう―――紫崎君」


 三回裏は10対11で大森高校の優勢で終わる。



「四回表、淳爛高等学校の攻撃です―――九番―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 大森高校のメンバーは既に守備位置に着いている。

 相手の九番打者が打席に入る。

 マウンドの陸雄がロジンバッグを落とす。


「よっし! ロジンバックで滑り止め完了だな。さぁ、ハイン! 四回表だ―――やるぜ!」


 陸雄が声を出す。

 ハインが黙って、頷き―――サインを送る。

 相手の打者が構える。

 サインを見て―――陸雄がセットポジションで投げ込む。

 指先からボールが離れる。

 外角の真ん中にボールが飛んでいく。


(やや遅い! ―――ここっ!)


 九番打者がスイングする。

 ストレートのボールがバットの軸上に当たる。

 サード上空にボールが落ちていく。

 坂崎がフライをゆっくりと構えて、処理する。

 そしてグローブにボールが入る。


「―――アウト!」


 審判が宣言する。

 淳爛高等学校の監督がイラッとする。


「初球から内野フライに打ち上げおって! ええい! 張元頼りか―――出塁しろよ」


「坂崎! フライ処理上手いぞ! ナイスプレイ!」


 陸雄がそう言って、坂崎からボールを受け取る。


「わ、ワンアウト。が、頑張ろう!」


 坂崎が声を出す。


「任しとけよ。次は抑えるぜ!」


 陸雄がキャッチャーボックスを見る。


「フッ、坂崎がサードのままなら―――この先も楽な試合になるんだがな」


 ショートの紫崎が九衛に話す。


「宮古島の沖縄マントヒヒと違って、士気も上がるしな。だが、松渡はともかくチンピラ野郎とチェリーにはブルペンで肩作らないといけないから、もう一人経験のある選手が欲しかったな」


「フッ、確かに今より楽になってたかもな―――」


「チェリーが張元に打たれる確率はたけーから構えとこうぜ」


 セカンドの九衛がそう言って―――前を向いて構える。

 紫崎もフッと笑んで、構える。

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

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