第291話
「俺はアウトになったが、こういう戦術も野球にはあるんだな。真伊已の野郎、こんな点の取られ方されて―――さぞ悔しいだろうな」
「フッ、お前との打席勝負は次までお預けだな」
「みたいだな―――星川君。いっちょホームランで九衛達を返してやってくれ!」
陸雄がネクストバッターサークルの星川に声をかける。
「ええっ! スタンドからのチャンステーマがないのが残念ですが、打っていきますよ!」
そう言って、星川がバッターボックスに移動する。
マウンドの真伊已が捕手に合図を送る。
(真伊已―――あれを使うのか? 確かにランナー二人残ってるし―――下手したらもう1点取られるけどよ?)
(―――構いませんよ。ここまでやられたんじゃ俺も大人しく打たれるわけにはいきませんしね)
(わかったよ。でも一球だけにしておけよ)
捕手が頷いて、座り込む。
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「大森高校―――六番―――ファースト―――星川君―――」
左打席に星川が立つ。
そして中野監督のサインを見て、ヘルメットに指を当てる。
真伊已が肩を小刻みに上下させる。
捕手がサインを送る。
真伊已が頷いて、セットポジションで投げ込む。
星川がジッと観察する。
指先からボールが離れる。
内角高めにボールが飛んでいく。
星川がタイミングを合わせて、スイングする。
ボール二個分バットが下に空振りする。
捕手のミットにボールが収まる。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに126キロの球速が表示される。
真伊已のフォーシームでのストレートだった。
捕手が返球する。
(ちょっと窮屈なコースでしたね。―――でも次は打ちますよ!)
星川が構える。
真伊已が捕球して、構える。
捕手がサインを送る。
真伊已が頷いて、投球モーションに入る。
指先からボールが離れる。
内角低めにボールが飛んでいく。
(また内角? でも低すぎる気がする)
星川が見送る。
捕手のミットにボールが収まる。
(同じストレートですが、コースがボール半分ほどズレてますね―――判定はボール……)
「―――ストライク!」
「……えっ?」
球審の宣言に星川が声を漏らす。
「入ってたのか―――追い込まれましたね」
星川は抗議せずにバットを構え直す。
(真伊已―――いよいよだな。リードするから決めてくれよ)
捕手が返球する。
(ええ、そのつもりですよ―――)
真伊已がキャッチする。
一塁を目で牽制する。
錦は少しだけリードを取って、動じない。
バッターボックスを見て、捕手のサインに従う。
真伊已が投球モーションに入る。
(三球目は決め球のパームボールで間違いないです! なら、打ちます!)
星川がバットを強く握る。
指先からボールが離れる。
高く投げられた球はリリース後に大きく落ちる。
星川がボールの変化に視線を上下する。
真ん中ボールが横回転を加えながら飛んでいく。
(もっと下に落ちるはずです―――ここ!)
星川がやや下にスイングする。
打者手前で横回転の加わったボールが斜めに落ちていく。
「―――この変化はっ!」
バットの軸に当たらずにボール半個分―――斜めにズレる。
カキンッという金属音と共に投手手前でボールがバウンドする。
投手の真伊已が小走りして、ファーストに投げる。
「―――アウト! チェンジ!」
塁審が宣言する。宣言する。
このアウトは錦ではなく、打者の星川へのアウト扱いになる。
塁にいる錦と九衛がボールの変化に気付く。
「ほーん……なるほどねぇ。前にも投げてたけど―――まーだ隠してやがったか……。あの様子じゃ本人はシビアな条件で使い分けられるとも思えないな。錦先輩も2タイプの無意識な分け方には気づいてる、か―――」
九衛が二塁からベンチに戻っていく。
錦も考え事をしているのか、無言でベンチに戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます