第270話
二回表が終わり―――二回裏になる。
ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「二回裏―――大森高校の攻撃です。八番―――サード―――坂崎君―――」
右打席に坂崎が立つ。
中野監督がサインを送る。
(えっ? ぱ、パームボールは投げてこないから、初球はストレートを振って、次に来るスローカーブとカーブが来たら振っていけ?)
坂崎がヘルメットに指を当てて、構える。
(な、なんで断定できるんだろう? で、でもストレートにも注意して振っていこう)
「―――プレイ!」
審判が宣言する。
坂崎がバットを構える。
捕手がサインを送る。
(確かに無駄球は彼には使えませんね。それでいきましょう)
真伊已が頷いて、投球モーションに入る。
セットポジションから、指先からボールが離れる。
外角高めにボールが飛んでいく。
坂崎がスイングする。
バットが下に空振り、捕手のミットに収まる。
ストレートだった。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに125キロの球速が表示される。
(やっぱり見えてない上に軌道も読めていないようですね。ハインさんに回る前にツーストライクに持ち込めば、点の差は縮まらないでしょう)
捕手の返球で真伊已が受け取り、一息つく。
坂崎が構え直す。
捕手が続けて、サインを送る。
真伊已が頷いて、セットポジションで投げ込む。
指先からボールが離れる。
坂崎が投げられたボールの軌道を視る。
ボールが先ほどよりやや上に飛んでいる。
(こ、これは、間違いなく―――)
坂崎がバットを下にスイングする。
坂崎が灰田や松渡との捕球練習でみた軌道―――。
打者手前でボールが右に曲がりながら落ちていく。
(―――か、カーブだ!)
バットの軸にボールが当たる。
「!? 読まれていたのですか?」
真伊已が声を漏らす。
サード方向にボールがバウンドしていく。
坂崎が一塁に走っていく。
サードが捕ろうとするが、ボールがイレギュラーを起こす。
「何やってんだ! レフトとショート! カバーに入れ!」
捕手が声を上げる。
レフトとショートの中間に転がり、ボールが止まる。
ショートが捕って、ファーストに送球する。
坂崎がヘッドスライディングする。
ボールがファーストのグローブに捕球される。
「―――セーフ!」
塁審が宣言する。
ベンチの中野監督が腕を組む。
「やはり坂崎にストレートとカーブだけで攻略しようと思っていたか、捕手の練習でカーブの軌道が坂崎には体感的に解っている」
中野監督の言葉に古川が話題に乗る。
「軌道が読めてても―――練習で打てるようにならないとそうでないとは違いますよね」
「結果的には打てたが、次からパームボールは投げてこないだろう。坂崎が打てるのはこのイニングだけだ」
「―――坂崎君のプレイも含めて見事な采配です」
古川がそう言って、スコアブックを書き始める。
「まぁ、次はどうみても采配のしようがないがな」
そう言って、中野監督がベンチの椅子に座る。
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