第266話
灰田がすぐに投球モーションに入る。
力を少し入れて、指先からボールが離れる。
外角真ん中に真っ直ぐボールが飛んでいく。
「よっし! まずはワンストライクだ―――」
灰田がそう思った瞬間―――相手の打者は見送る。
ハインが捕球する。
審判が僅かな間を作る。
「―――ボールフォア!」
そして球審が宣言する。
「―――えっ?」
灰田が声を漏らす。
ボール一個分コースから外れていた。
ハインが表情を変えずに返球する。
スコアボードに121キロの球速が表示される。
灰田が心ここにあらずの状態でキャッチする。
ランナーがこの瞬間―――満塁になった。
「じょ、上位打線につながちゃった……」
サードの坂崎が声を漏らす。
ベンチの中野監督は腕を組んで、冷静に静観していた。
ハインにサインを送る。
中野監督からのタイムを出せというサインだった。
ハインが頷く。
ベンチの松渡が中野監督に声をかける。
「陸雄に中継ぎとして、そろそろ交代させます~?」
その言葉に中野監督が振り向いて、答える。
「いいや、これから先の試合でピンチの場面に出くわすのに慣れないとな。マウンドで逆境に強くないようでは、気持ちから負けていく」
その言葉に松渡は複雑な表情をする。
どこか心配が混じっていた。
「そんな顔をするな。闘志があっても、引くときには引かせる。溜まった投げ続けたい欲求を次の試合で維持させるのも仕事の内だ。監督の私が一番よく解っているさ。お前は登板のことだけ考えていれば良い」
「わかりました~。ブルペンの坂崎がいれば肩作れますけど、今はサードですしね~。実戦で抑えながら、慣らしておきますよ~」
古川がスコアブックを書きながら、松渡たちの話題に入る。
「なんなら、私がブルペンやろうか?」
いつもの無表情の古川がそう答える。
その冗談に松渡が少しだけ笑う。
「いやいやいや~、マネージャーだし―――それに女子ですし、無理ありますよ~。あっ、張元君が打席に入りましたね~」
そんなやり取りの中で、ウグイス嬢のアナウンスが流れる。
「淳爛高等学校、一番―――ショート―――張元君―――」
張元が左打席に入る。
「すいません。タイム良いですか?」
ハインがそう言って、審判が承諾する。
ハインがマウンドに移動する。
内野手の陸雄達もマウンドに向かう。
外野手の九衛と錦だけは動かずに休憩していた。
「まぁ、俺様が檄を入れてやるまでもないか―――チンピラ野郎、こっからお前が鍛えるところだぞ」
そうボヤいて、青空を見上げる。
飛行機雲が綺麗に描かれた青空だった。
「雨の心配もねぇし、紫崎とチェリーが金髪と一緒にフォローしてくれんだろ」
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