第212話

 古川が席に座ったままハインに話す。


「それを断るなんてとんでもない。今一度考えるのだ我が娘よ!」


 ハインが兵士に押さえつけられながら、返答する。


「離せ! 結婚など断る! そもそもオレはアヤネマネージャーの娘ではないっ!」


「それを断るなんてとんでもない。今一度考えるのだ我が娘よ!」


 古川が先ほどと同じ声のトーンで話す。


「だから断る! トモヤ、タカシ! その手を離せ!」


 ハインが二人の兵士の名前を言って、抑える手を離そうとする。


「さあ、姫。暴れずに―――殿中ですぞ」


 中野監督がそう言って、階段を降りる。


「殿中ではない西洋の城だろ! どうあがいてもオレは断るからな!」


 ハインが突っ込むも中野監督は無表情で黙っている。


「それを断るなんてとんでもない。今一度考えるのだ我が娘よ!」


 古川が同じ声のトーンで再び話す。

 まるで昔の選択肢が実質一つしかないRPGゲームの光景だった。

 張元がハインに抱き着く。


「濡れるつぼみは貴方の寂しがる涙。咲かせて見せましょう初夜の姫の花を―――咲かせるどころか散らします!」


 張元がハインの唇に唇を重ねる。

 生々しい感触だった。

 ハインが両手で張元の顔を引き離す。


「ヤメロー!?」



「―――はっ!」


 ハインがガバッと起き上がる。

 いつもの部屋でパジャマ姿でベッドに寝ていたようだった。


「夢か―――なんて最悪な悪夢だ」


 汗ダラダラのハイン起き上がって、頭を抱える。

 気持ちを切り替えるために机に置かれている教材を見る。


「今日は期末テストの結果発表と夏休み前のガイダンスか」


 確認して、起き上がり―――着替える。

 唇を指で触る。


「大丈夫だよな? されてないな、うん。されていない」


 謎の安心感でハインは制服に着替え終える。

 そして家族といつもの朝食を食べて、登校した。



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