第206話

「あと15分で試合が始まる時間だ。試合が終わったらすぐに戻れ。撮影はするなよ」


 インプレッサのドアを開ける。


「念のために古川マネージャーの外見も多少は変えた。行ってこい」


「「はい」」


 二人は降りて、淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)の校門に向かった。



 校門で野球関係者の大人たちが他学生たちに野球関係者かどうかの学生証を提示させていた。


「偵察禁止とは聞いていたけど、厳重だったね。データ取れないかも」


 古川マネージャーが少し不安そうな顔をする。


「アヤネマネージャー。このままではバレる。一旦引き返すか?」


 その時にスパイラルパーマの髪型の高校生がやってきた。


「そこにいる君達。可愛いね。どこの高校?」


 二人に話しかけたその高校生は野球部のユニフォームを着ていた。

 古川マネージャーが出来るだけ可愛らしい声で話す。


「実は私達―――淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)の野球部のファンなんです!」


 その声に少年はニコニコする。


「そうなの? そこの金髪の娘もファンな訳? 名前なんて言うの? ねぇねぇ、どの選手が好き?」


 少年はハインの太ももやパッドを入れた胸をチラチラ見ながら、愉快そうに話す。

 古川がハインの代わりに話す。


「この子。日本に来たばかりで日本語がまだ話せなくて、でもここの選手が好きだから見てみたいって言ってここまで来たんです。名前はルカちゃんって言います」


(アヤネマネージャー。息を吐くように凄い嘘をつけるのだな。というか偽名がルカって……)


 ハインが冷や汗を流しながら、黙って聞く。


「ええっ! マジ? 実は俺っちがここの野球部の副キャプテンでショートなんだよねー。ルカちゃんも君も可愛いから、俺っちの知り合いってことで特別に通してあげるよ。おっさん相手に身分証提示めんどいでしょ? 最前列の席に座らせるから、しっかり俺っちの活躍見ててよね」


 野球部の副キャプテンはハインの傍に近づいて、髪をクンクンっと嗅ぐ。


(おおっ~! 清楚な女子高生の香りが俺っちの股間とピュアな気持ちにビンビンだぁー。クッソ怠い愛媛のザコ高校の試合終わったら、二人のアドレス交換だな。うへへ~……スケベェ出来るぜぇ……夢が広がリング!)


 ハインが我慢して、そのまま遊撃手(ショート)の高校生と一緒にグラウンドに移動する。


(オレを見る目が嫌すぎるが、女装の手前言えない。我慢して試合のデータを取っていこう)


「この二人。俺の友達なんすよー。野球とかよくわからないけど、ファンらしくて、俺の顔パスで通して貰えません?」


 野球関係者に遊撃手(ショート)の高校生が説明して、関係者が渋々通す。


「ルカちゃんだっけ? 俺っちの名前は張元悠作(はりもとゆうさく)! 三年生なんだよ。そっちのメガネのセミストレートヘアーの女の子は?」


「森川絢音です。私彼氏がいるんですけど、ルカちゃん彼氏がいなくて、カッコいいバッターが見たいからここに応援に来たんです」


 古川が偽名をちょっと聞こえない程度で話す。


「そうなんだー。ルカちゃん、君可愛いね。試合終わったら俺っちと意見交換会しなーい?」


 古川がハインに目配せする。

 従ってくれッという合図だった。

 ハインがぎこちなく頷く。


「いいねぇー。積極的な女の子は俺っちは好きよ。いいよ~。君の前でいつもより本気で見せるよ。俺っちがヒット打ったらさ。アドレスとか教えてよ?」


 張元の股間が膨れていた。

 それを見たハインは顔が青ざめる。



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