第205話
「くしゅん!」
淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)の更衣室で一人の男のくしゃみが響く。
「副キャプテン。夏にくしゃみするなんて―――誰か噂でもしているんじゃないですか?」
男のくしゃみに一年生部員が話す。
「フフフ……俺っちに素敵な出会いが今日ある気がするぜ。このくしゃみはきっとこれから起こる予言のようなものだな」
一年達はいつものことなので、笑って流す。
「よっし! ちょっと気合い入れて校門のファンの列に行って来る」
副キャプテンはそう言って、着替え終わって出て行く。
一年生達が慌てる。
「えっ! ちょっと副キャプテン! 今日は練習試合ですよ?」
声をかけるも副キャプテンの男が外から大声で返答する。
「試合前には戻る。かわいい娘の物色くらいさせろ!」
そう言って、走る音が遠ざかる。
一年生達はため息をついた。
「監督に前の公式試合でファンの娘に声かけまくって、遅くなって怒られたばかりなのに―――」
「実力あっけど、ああいう所がちょっとね。はぁ、懲りない人だよなぁ」
「そういや真伊已先輩は?」
「先に着替えて、もう捕手と練習してる。俺らも来年のレギュラー目指して頑張ろうぜ」
「頑張るつったって、今日は観客席の人数が込まないように俺ら雑用じゃん」
「萎えること言うなよー。ったく、明日から練習で本気出そうぜ」
一年生達は雑談を終えて、着替えを済ませた。
※
女装を終えたハインは見つからずに車に戻り、三人で淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)に向かう。
「今日はあの高校は練習試合がある。今年の夏の県大会で一回戦落ちした愛媛県の野球高校との試合だ」
中野監督はインプレッサを運転しながら、ハインに説明する。
「秋季大会に向けて課題を作りたいから新チームスタートとして、向こうの高校は淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)を選んだみたいだよ」
髪を下ろして伊達眼鏡をかけた古川が隣に座るハインに補足説明する。
大会期間中に練習試合は出来る。
しかし当然公式試合の高校とは練習試合は出来ない。
大会に負けた高校との試合が大会中に出来るという条件がある。
その代わり冬期間は、平等のために練習試合が禁止されている。
甲子園に出場しているチームからすると有利な点があるのも理由の一つだ。
相手高校が今度の試合の大森高校への調整をするために選んだという情報が中野監督の耳に入っていた。
データ不足の高校を実戦形式で知ることが出来る唯一の機会だった。
「古川マネージャーが投げられる変化球があれば次の練習で対策練習をさせる。ハインは打者と守備の状況を中心にデータを取っておけ。私は大森高校の現監督だ―――偵察禁止になっているから入ることは出来ない」
そう言った後に淳爛高等学校(じゅんらんこうとうがっこう)付近の駐車場に車を止める。
古川が下した髪にウイッグを着けて、ロングウェーブヘアの髪型に変える。
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