第186話

 灰田が鞄を肩に乗せて、話す


「ああ、そっか。お前面識ないもんな。まぁ、来年の俺らの強打者の一人だな。すげぇ強かったんだぜ。二回戦を帰りに話してやるよ」


「ああ、じゃあこの人が中野監督の練習後に話していたジェイクって選手かぁ。へぇー……なぁ、どんな奴だった? めっちゃ強かったの?」


「フッ、今から説明するのはいいが―――幼馴染みがさっきから後ろで待っているぞ?」


 紫崎が視線を陸雄の後ろに送る。

 振り向いた先には清香が鞄を持って、待っていた。


「―――え? あっ! わりぃ、また今度なー」


 そう言って、陸雄は手紙と写真を鞄に入れて去っていった。

 灰田も紫崎と顔を合わせる。


「星川達も帰っちまったし、たまには俺と二人で帰るか? 駅までなら送るぜ」


「フッ、ただまっすぐ帰るのもつまらんしな。お前と両想いの中野監督も今日は居ないようだしな」


「はぁ! なんだよ、それ。お前ら勘違いしているようだけど、訂正するために言っとくけどなー」


 二人は雑談しながら、学校を出て行く。

 陸雄が清香の前に着く。


「ごめんごめん。待たせちゃったな。一緒に帰って、家で勉強しようぜ」


「別にそんなに待ってないよ。柊木さん達と教師でさっきまで話してたしね」


「んじゃあ、さっさと帰ろうぜ」


「も~、わかってないなぁ。陸雄と一緒に帰るの久しぶりなんだから、ゆっくり帰ろうよー」


 二人は肩を並べて、学校を出て行く。



 陸雄と清香の二人が駅まで雑談をしながら歩く。


「それでね~。美穂ちゃんが一部分が痩せるダイエットを二か月続けて、男の子の友達と室内プールに行ったら凄かったんだよー」


「ああ、隣のクラスの清香達の友達な。男子の間でデブとかドムとか関取とか、しまいにゃアメリカンバーガーサイズとか散々言われてたけど―――最近痩せてたんだな」


「そういう言い方酷いよー。美穂ちゃん、ネットや雑誌で調べて、すぐに実行して努力したんだよぉ。可愛くなったじゃない」


「それするくらいなら、テニス部とか入って部活やりゃあ、一気に痩せて―――筋肉付いて、健康的になると思うぞ?」


「美香ちゃん調理部だよー。ウチの高校は兼部無理でしょう? 女の子のそういう見えない努力を評価してあげなよ。モテないよー」


「そもそも見えない努力なら気付かないんだよなぁ……。それに俺は別にモテなくていいの。そんなんで野球してるとかさもしい考えだぜ。おっ、駅着いたぞ」


 陸雄と清香がそのまま改札を定期カードに照合させて、駅構内に入る。


「陸雄達は女の子の間で結構話題になるんだよ。私昼休みに色々聞かれるもん。野球部の事よく知らないから、あんまり答えてないけどね」


「ほーん。普段から女子に相手にされて無いから、全然そんな話を聞かないんだが……つうかクラスで清香以外の女子と話したの隣の席の飯島だけだぞ?」


「ああ、飯島さんかぁ。私入学以来話したことないんだよね。いつもスマホ弄ってるし、誰とも話さないから心配だなぁ」


「なんか俺の自己紹介の後に―――しばらくしてブリーフ派かスパッツ派か聞かれたんだけど、なんかキモいから無視した」


「陸雄、思春期の女の子傷つけちゃダメだよー。隣の席だから今度はちゃんと話してあげなよ」


 エスカレーターに乗りながら、会話を続ける。


「えー、だって、あいつ総じてキモい。まずデコが出てて、ハゲみたいだし、メガネのデザイン無駄にカラフルで痛いし、鼻息酷いし―――教師以外は口を聞かずに昼休みになったらどっか行くし―――休み時間はずっとスマホばっか見てるんだぜ?」


「んー、確かに私達女子でもあんまり良い噂聞かないかなぁ。トイレで凄い悪口言われてたし―――」


「夏休みになったら会うことないからどうでも良いです。それに他の女子に話すと迷惑そうに対応されるから俺は話さんしな」


 二人はエスカレーターを上り終えて、駅のホームに移動する。



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