第171話


 錦が二塁を蹴り上げる。

 ライトがボールを捕る。

 そしてセカンドとライトの本来の定位置の中間の位置にいるジェイクに中継する。

 九衞が三塁を蹴る。

 そのままホームベースに進む。

 錦が三塁に向かう。


「ジェイク! よっつだ!」


 捕手が声を高らかに上げる。

 ジェイクがレーザービームの様な返球で捕手に向かって、送球する。

 九衞がホームベースに向かって、スライディングをする。

 星川は一塁を既に通過して、一塁を踏み戻した後は動かない。

 ジェイクの異常に早いボールが捕手のミットに入る。

 パンッと言う音と共に―――そのまま捕手が九衞をタッチしようとする。

 しかしその前に九衞がスライディングしながら本塁を手でタッチする。


「―――セーフ!」


 審判が宣言する。

 錦は三塁を踏んで止まる。

 大森高校に15点目が入る。

 観客の歓声が高く上がる。

 星川がこの打席で二点タイムリーを決めたのだった。


「これがメジャーリーガーを目指す僕の真の実力の片鱗です」


 一塁の星川が誇らしげに笑顔を浮かべる。

 それを聞いた九衞が高笑いをする。


「がっはっはっはっ! 星川君め、この俺様とは違ったセンスのあるバッテイングをするじゃないか! 来年は俺様の次の上位打線になるな」


 九衞が立ち上がりながら、そう言ってベンチに戻っていく。


「大森高校―――六番―――ピッチャー、松渡君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 その間に三塁の錦がリードを取っていく。

 松渡が左打席に立つ。

 中野監督のサインを見る。


(警戒されるスクイズはしなくて良いから好きに打てね~。了解~)


 松渡がヘルメットに指を当てる。

 捕手が戸枝に返球して、立ち上がったままジェスチャーを行う。

 外野手と内野手達が定位置に戻っていく。

 松渡がバットを構える。

 捕手がサインを送る。

 ロージンバッグで滑りを念入りに防いで、戸枝が頷く。

 そして投球モーションに入る。


(低めに飛ぶのかな~? 僕が今投手の立場だったらそうするかも~)


 指先からボールが離れる。

 外角やや低めにボールが飛んでいく。

 松渡がタイミングを合わせて、ボールよりもやや下にスイングする。

 打者手前でボールが左に曲がりながら深く沈んでいく。

 松渡がそのシンカーをバットに当てる。


(あ~、ダメな感触だ~)


 松渡がバットを持ったまま走らない。

 ボールがファースト手前に落ちて転がっていく。

 内野ゴロだった。

 星川と錦は塁から動かない。

 ファーストがボールを捕って、一塁を踏む。


「―――バッターアウト!」


 審判が宣言する。

 松渡がバットを持ったままベンチに移動する。


「失敗だダミだこりゃ~」


 ネクストバッターサークルの灰田がそれを近くで聞いて、松渡の背中をポンポンっと叩く。


「灰田、打てなくてごめんね~」


「はぁー……はじめん、せめて少しくらいは粘れよ」


「面目ないです~」


「ピッチャーとしては陸雄よりすげぇけど、打席は陸雄の方が良さげだな。まっ、俺も人のこといえたもんじゃねぇけどさ」


「灰田はライト範囲も含めた守備と投手と打席やんなきゃいけないから応援するよ~」


「中野が下位打線にしたのもそれがあるしな。じゃ、行って来るぜ」


 灰田が打席に移動する。


「大森高校―――七番―――センター、灰田君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。


(中野のサインはっと、ああスクイズはしなくて良い。好きに打てねぇ―――んじゃあ、初球から打っていくか)


 灰田が右打席に立って、ヘルメットに指を当てる。

 中野監督のサインを見終わったので、バットを構える。




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