第158話


 松渡がボールをキャッチする。

 三番打者がバットを構え直す。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 外角高めにボールが飛んでいく。

 三番打者がタイミングを合わせようとスイングの動作を始める。

 打者手前でボールが真っ直ぐ一個半沈んでいく。

 三番打者がスイングギリギリで動作を中断する。

 ハインのミットにボールが収まる。

 外角のストライクゾーンからボール一個分外れたコースだった。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに126キロの球速が表示される。


(―――やはりか、間違いなく狙っていた。動作が早かったのが確定だな)


 ハインが返球する。

 松渡がキャッチする。

 相手の打者がバットを構え直す。

 ハインがサインを送る。

 松渡が頷いて、投球モーションに入る。

 少し間を空けて、指先からボールが離れる。

 内角真ん中にボールが飛んでいく。

 打者手前で左に曲がりながら、ボールが沈んでいく。

 相手の打者は振りそびれる。


「―――ストライク! バッターアウト!」


 球審が宣言する。

 松渡が持つ、もう一つのシュート。

 それが先ほどの左に曲がりながら沈むシュートだ。

 サイドスピンをかけて、投げるシュートである。

 スコアボードに126キロの球速が表示される。キロ

 松渡はこの二つのシュートを使いこなすことが出来る。

 ただ打率が悪いことを除けば、彼は非常に優秀な投手である。

 事実シニア時代の彼の埼玉県内の選手層のレベルは、十年に一度と言われるほど、優秀な選手が揃っていた。

 松渡はその中でも有名な投手であり、九衞に知れ渡るほどの実力者だ。

 現状、陸雄よりも投球においては最強だろう。

 

(ボール球を除けば、シュートとストレートの組み合わせの配球を相手は明らかに遅かった。フォークボールのみ間違いなく反応があった)


 ハインが考え込んで、しばらくして松渡に返球する。

 西晋高校の監督が悔しがる。


「―――ちぃ! ここに来て、フォークボールを多用しなくなったな。まぁ、いい次の打者はあいつだ。小細工抜きで点が取れる選手だ」


 西晋高校の監督がそう言って、打席を見る。


「西晋高校―――四番―――センター、ジェイク君―――」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 左打席にジェイクが立つ。


「ヘーイ! アメリカンボーイ! ケイエン ハ ナシ デ アジ ノ アル コイ ノ タノミマス」


 ジェイクがハインを見て、ニカッと歯を見せて笑う。

 そしてバットを構える。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。


(ワンナウト、ランナーが一、二塁でこの相手か―――敬遠したいが、ハジメの言葉を守る為に勝負するしかない)


 ハインがサインを送る。

 松渡がニッコリと頷く。


(ハイン、ありがとう~。僕も今以上に本気で挑むよ~)


 投球モーションに入る。

 ジェイクがジッと観察する。

 指先からボールが離れる。

 その瞬間―――ジェイクがボソリっと呟く。


「アウトハイ……フォーク」


 そしてジェイクがバットをフルスイングする。

 振ったバットは外角高めのボールよりやや下の位置。

 だが―――ボールが打者手前で真っ直ぐ沈んでいく。

 スイングタイミングと沈むボールの位置がバットに一致する。

 バットの真芯にボールが当たる。


「嘘っ! 当たりましたね!」


 ファーストの星川が驚く。

 僅かな時間でジェイクが力をバットに込める。

 そしてカキンッと言う金属音と共にボールが飛ぶ。


(初球打ち! ―――マズい!)


 ハインが立ち上がる。

 ライト上空にボールが飛んでいく。



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