第131話


 ハインが二塁から少し離れてリードを取る。

 戸枝がキャッチする。

 捕手がサインを出す。

 戸枝が後ろを向いて、投球する。

 ハインが二塁にスライディングで戻る。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。


(フッ、盗塁させないための苦肉の策だな。あのサウスポーのアンダースローではクイックが出来ない、か―――)


 紫崎がニヤリとする。

 中野監督も気付く。


(なるほど、クイックがやはり出来ないようだな。ならば、あの戦法は後半の回まで取っておくか)


 セカンドから返球されたボールを戸枝が受け取る。

 捕手はサインを送らない。

 先ほど送ったサインの通りに投げろっという意味が込められていた。

 戸枝がセットポジションで投球モーションに入る。

 指先からボールが離れる。

 内角やや低めにボールが飛ぶ。


(―――遅い。シンカーか?)


 紫崎が見送る。

 打者手前でボールが左に曲がりながら落ちる。

 ミットにボールが収まる。


「―――ボール!」


 球審が宣言する。

 ボールはストライクゾーンからボール一個分外れていた。


(っち! この紫崎って、一年坊。よく見てやがる)


 捕手が返球する。

 スコアボードに106キロの球速が表示される。

 戸枝がキャッチする。

 捕手がサインを送る。

 戸枝が頷き、セットポジションで投球モーションに入る。

 紫崎がじっくりと観察する。

 指先からボールが離れる。

 真ん中高めにボールが飛ぶ。

 紫崎がスイングする。


(フッ、そのカーブは読めていた!)


 紫崎の思惑どうりにボール左に曲がりながら落ちる。

 バットの芯にボールが当たる。

 カキンッと言う金属音が鳴る。

 力を少しだけ加えて、ボールを飛ばす。


(あまり力を入れ過ぎるとライトライナーになるからな)

 

 紫崎が一塁に走る。

 打席にバットが転がっていく。


「くっそ! なんで打たれたんだよ!」


 戸枝がライト方向を見る。

 ライト手前でボールがバウンドする。

 イレギュラーでライトがボールを捕りそびれる。

 ハインが三塁に向かって、走る。


「何やってる! 早くひとつに投げろ!」


 捕手が怒鳴る。

 後ろからボールを追って、ライトが送球した頃には紫崎とハインは塁にいた。

 ファーストがボールを捕球する。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。  

 ランナーが一、三塁になる。


「さーてと、この俺様が金髪と紫崎を返してやんねぇとな。錦先輩なら俺様も返してくれるだろうがな」


 ネクストバッターサークルの九衞がバットを肩に当てて歩いていく。


「―――三番、セカンド―――九衞君」


 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

 左打席に九衞が立つ。

 中野監督がサインを送る。

 

(ふぅん。俺様にそれをさせるか―――まっ、良い采配だし大人しく従うかな)


 九衞がヘルメットに指を当てる。


「―――プレイ!」


 審判が宣言する。

 九衞がバントの構えを取る。

 ボールを受け取った戸枝が考え込む。


(成程、スクイズか―――ここは慎重に点が欲しいと言った所か―――先輩、前面守備にしましょう)


 戸枝が右肘を掻くと先輩捕手が頷き、立ち上がる。

 前面守備の仕草をして、外野手と内野手が前に移動する。



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