第112話
「あぶねー。ボール球で良かった」
(まだ相手は目が慣れていないか、次は少し上げるか―――)
打者を観察したハインが返球する。
松渡がキャッチする。
(ワンボール、ワンストライクか~。ハイン、次はどうするの~?)
ハインがサインをする。
松渡が頷く。
打者が構え直す。
松渡が前と同じ独特のフォームで投げ込む。
指先からボールが離れる。
外角低めにボールが飛ぶ。
(さっきとほとんど同じ速度! 今度こそ!)
打者がバットを振る。
バットがボールより少し上に振り上げて、空振る。
ハインが外角低めのストライクゾーンで捕球する。
「―――ストライク!」
球審が宣言する。
スコアボードに136キロが表示される。
「あれ? なんだ? 俺まだ慣れてないのか?」
打者が困惑する。
ハインの返球に松渡がキャッチする。
(へ~、案外振るもんなんだな~。ハインも考えてるな~)
ハインと目が合う。
松渡がジッとやや嬉しそうに見る。
ハインがサインを出す。
(ハインのリードは迷いが無いな~)
松渡が頷く。
ボールを握って、投球モーションに入る。
足を地面に踏みつけて、腕を振る。
ボールが内角高めに飛んでいく。
打者のバットが少し動いて、見送る。
ハインがボールを捕球する。
(またストレートか―――相手の投手は制球力はそこまで良いって訳じゃなさそうだな)
「―――ボール!」
球審が宣言する。
(よし、今のは見えてたぞ!)
打者が少しだけ肩の力を抜く。
(相手は今の投球で解って気でいるようだが―――まだ頭回ってないな。ここらで打ちたい衝動に駆られる頃だろう)
ハインがそう思い、ボールを返球する。
松渡がキャッチする。
スコアボードに111キロの球速が表示される。
ハインがサインを送る。
頷いた松渡がボールを握る。
(次は恐らく決め球だろう。フォークボールの落ちる位置まで調整してやる)
相手打者が松渡の投球モーションをじっと見る。
やがて指先からボールが離れる。
外角中間にボールがまっすぐ飛ぶ。
(ボール二個分だろ? 落ちるボールの位置まで読んでいるぜ!)
打者がタイミングを合わせてバットを振る。
ボールが一個分ズレて真っ直ぐ下に落ちる。
「くっ!」
二個分落ちると思って振ったバットが一球分上に投げたボールに掠る。
(浅めに落ちたのか!)
相手の打者がそう思った時には空振りしていた。
「―――ストライク! バッターアウト!」
球審が宣言する。
スコアボードに126キロの球速が表示される。
(ハインは緩急も含めて、ちょっと浅く握れってサインまで細かいな~)
ネクストバッターサークルに入る前のジェイクが頭を掻く。
「ウーン?」
ベンチで何かに気付きつつあるような反応だった。
三番打者が打席に入る前に二番打者が助言する。
「コントロール正確だ。緩急もある。決め球にフォークボール持ってるが、落ちる位置が安定してない。フォークボールは球速と回転のどちらも気を付けなければいけない球だ―――使いこなせていないんだろう。打てるぞ」
「うっす! 解りました」
二年生である次の打者が移動する。
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