第26話
陸雄が離れた所で、古川が中野監督の傍による。
「古川。岸田の投球を見て、どう思う?」
「ある程度のフォーム変更も含めて―――カーブとスライダーのキレ。そして緩急の付いたチェンジアップとストレートの球威をあげるのが、課題だと思います」
「そうだな。コントロールは追い込まれると、危ういところがあったな。メンタル面は私がなんとかしよう。甘えさせずにどん底に落として鍛えろ。古川は岸田の投球指導してくれ」
「わかりました。松渡君はどうします?」
「岸田の打席勝負次第でほっといても成長するか、付け足し程度の指導で足りるだろう。まぁ、岸田メインで指導してやってくれ。空いた時間があれば、松渡には好調かどうかが解る―――コントロールの確認だけでいい」
※
サインを決めたハインと―――マウンドから何球かボールを投げた松渡が準備を終える。
古川が松渡のそばのマウンドに立つ。
陸雄と同じようにグローブを付けて、観察している。
中野監督が球審の位置について、手を上げる。
「―――プレイ!」
陸雄がバットを構える。
ハインがサインを出す。
(わかったよ~。ハインもいきなりそれをやるとはね~)
松渡が投球モーションに入る。
タイミングの取りづらい球が見えないフォーム。
投げる腕が見えないのが原因だった。。
さらにサウスポーなだけに癖が強い。
隠れるように球が見えない中で―――いきなり手を離すモーションになる。
気が付いたら球が放たれていた。
(タイミングが取りづらい―――迂闊に振れない!)
パンとという音がハインのミットに響く。
外角低めのボール球スレスレのストレートだった。
「―――ストライク!」
中野監督が手を上げて、宣言する。
ハインが返球する。
(次だ! 次っ! 集中しよう!)
陸雄がバットを見つめて、集中する。
ハインが陸雄の表情を見て、サインを出す。
(なるほどね~。じゃあ、投げますよ~)
サウスポーの独特のフォームの中で、投球する。
上げた足とやや傾いた体が―――投げる腕を隠していた。
その瞬間、足を下げると同時にボールが飛ぶ。
(真ん中より高め! 上に振る!)
陸雄がタイミングをやや遅れて、バットを振る。
その瞬間。
真ん中より高めのボールが、打者の手前で真っ直ぐ下に落ちた。
パンッと言うミットの音と、フルスイングして尻もちを着く陸雄。
「フォークボール!?」
陸雄が座り込んだまま、ハインのミットを見る。
ハインがミットからボールを手に持ち―――返球する。
(リクオの奴。まだ頭回ってないな。さて、ここらで意識させるか)
陸雄が立ち上がり、服についた地面の泥をはたく。
肩の力を入れて、バットを構える。
ハインがサインを出す。
松渡が頷いて、早めの投球を行う。
まだ見慣れないサウスポーのフォームから、前よりも早いボールが飛び出す。
打席の手前で陸雄のバットがピクリと動く。
打者手前の内角のボール球だった。
「―――ボール!」
陸雄が構える。
(次は何の変化球が来るんだ? もうツーストライク。ファールでも良いから粘らねぇと―――)
ハインは陸雄の顔を一瞬見て、返球する。
グローブでキャッチした松渡が、ハインの出したサインを見る。
(次で終わりか~。ハインのリードは上手いな~。さてと、投げるか―――)
松渡が投球モーションに入る。
そして素早く投げる。
(腕の振りが早い! 変化球だ!?)
陸雄がフォークを警戒して、バットをやや真ん中の下に振る。
だがボールは予想より、ゆっくりとしたスピードだった。
バットがタイミングが合わずに、空振りする。
パンッという音がミットに響く。
それは真ん中ではなく、打席よりの外角低めのストレートだった。
「―――ストライク! バッターアウト!」
中野監督はそう宣言し、球審用のマスクを外す。
「そんな―――アウトになった……なんで、なんでだ? 変化球だと思ったはずなのに…………」
陸雄が膝を付く。
中野監督が上から言葉をかける。
「岸田。これでわかったろう? 捕手の配球のありがたさ―――守備のバックの重要さ。そして得意球だけで三振を取りたがる投手の悪癖を消すために行った」
「投手の悪癖…………だから俺が負けたのか? でも―――なんで、俺は打てなかったんですか? はじめんがサウスポーだからですか?」
ハインがマスクを取って、立ち上がる。
「それについてはオレが説明しよう」
「ハイン……」
「簡単に説明すると最初の一球は外角低めのストレートだったな?」
「あ、ああ。打席からも遠いコースだったから打ちづらかった」
陸雄がバットを下に降ろして、ハインを見て答える。
「そこはハジメの今日の調子を見る意味でも貴重な一球だった」
「なんでそう思うんだよ? ただの打席から離れた外角低めのストレートに調子が解るのか?」
中野監督がハインの代わりに答える。
「岸田。球速に関係なく、バッターから一番遠いコースで―――ストライクゾーンに正確に投げれる。それは―――投手として、コントロールが優れている証拠なんだ」
ハインが頷く。
「リクオ。160キロの真ん中のストレートと、130キロの外角低めの直球。どちらが打たれないと思う?」
「そりゃあ、速い球が打たれないに決まってるだろ? 早ければバットが出にくいしさ」
紫崎がその答えに笑う。
「フッフッフッ……大したエース候補だな」
「なんだよ紫崎。感じ悪いな~。早けりゃ打たれないだろ?」
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