第23話
(坂崎には悪いが、次は変化球で行くか―――高校初めての変化球だ!)
硬球を握る指を変える。
左足を振り上げる。
古川がしっかりと観察する。
腕をしなるように振る。
地面にぶつかる中間でボールを離す。
ストレートよりも遅めのボールが打席に飛んでくる。
星川が振ろうとした瞬間。
ボールが左に小さく曲がる。
坂崎がパスボールする。
パスボールとは捕手が投球をそらすことである。
(―――スライダー!? これが陸雄君の変化球!)
星川が驚く。
坂崎が立ち上がり、ボールを取りに行く。
やがてボールを拾い、陸雄に返球する。
(よし、実質ハインなら捕球してたから、これでツーストライクだろう!)
坂崎が座り込む。
星川がバットを再び構え、集中する。
陸雄は、星川が何かを狙っているように感じた。
(次も同じく真ん中より低めにスライダー投げるか)
陸雄が振りかぶる。
前よりも球威を増して、腕を振る。
ザッという音と共にボールを投げる。
(―――来た! ここだ!)
星川がタイミングを合わせてバットを振る。
カキンと言う音と共に低めのスライダーをバットが当てる。
打たれた球はサードとショートの間を飛んで、レフト前でバウンドする。
「えっ? 打たれた!? 変化球なのに?」
陸雄が言葉を漏らす。
「―――ふむ、一塁打だな。星川、下がれ」
中野監督はそう言って、次の打者を目で見る。
陸雄は汗を流す。
(どうしてだ? さっきの変化球は110キロの左に曲がる―――真ん中より低めの球なのに―――どうして打たれたんだ?)
疑問に解決する時間もなく。
次の打者が出てくる。
「おーし、じゃあ―――かっ飛ばすか!」
打者用ヘルメットを被った灰田が打席に立つ。
星川がハインに駆け寄る。
「ハイン君の言った通りでしたよ! なんで二球目と三球目が同じ変化球だと、わかったんです?」
ハインがゆっくりと表情を変えずに淡々と答える。
「投手って言うのは、自分の決め球で三振を取ろうとする癖がある。陸雄は変化球に頼った結果、配球をその場その場で浅く考え、判断して投げていた。捕手のリードが無ければ、誘い球すら投げないだろう」
紫崎が目を瞑って、笑む。
「ハインの言うように、その投手の自己主張が悪癖だと言うことだろう? 捕手のリードのありがたさを陸雄は気づかない。良いテストだな。今後サインに首を振らないようにさせるわけだ」
星川が納得する。
松渡がジッと陸雄を見る。
「見た感じ、コントロールが良いから、配球指示出したら陸雄は僕以上に良い投手になれると思うよ~。僕は監督に理由を説明して辞退するけどね~」
※
マウンドの陸雄がグローブを顎に当てる。
そして目を細める。
厳しい状況にあると思っていた。
(変化球のスライダーが打たれた。またスライダーを投げたら、打たれる気がする。最初は指示通りにストレートで――――投げる!)
陸雄が投球モーションに入る。
腕を地面に叩きつけるように振り、中間でボールを指から離す。
今までの球より球威が上がり―――バックスピンの回転と共にスピードが出る。
空中でビュンっとボールが音を立てる。
灰田がバットを振る。
(えっ―――初球打ち!?)
灰田が初球のストレートをカキンと金属音を立ててライト線にバウンドさせる。
「初球で打たれることで、余計に追い込まれるってのもあるんですね」
星川が打たれて、膝に手をつく陸雄を見る。
松渡が灰田の所に移動する。
「次は僕だけど、陸雄かなりテンパってるだろうね~。中野監督はエグイねぇ~」
ネクストバッターらしき位置に、錦が金属バットを持って座る。
松渡が灰田から金属バットを貰う。
「はじめん。初球打っちまったけど、いいのか?」
「灰田。陸雄にはかなり効いてるよ~。初球のストレートも打たれると言うことは、打ちなれていくことで―――打たれ強さが生まれるからね~」
「そんなもんかね? ほらよ。バットな」
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