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 すぐに町田二尉は地下の教室まで降りてきたが、最初からその表情は硬かった。良く見ると彼女の両眼が赤くなっている。加藤三佐がMIAになったことで、部屋で泣いていたのかもしれない。ズキンと胸が痛んだが、それでも巧也は彼女に四人の考えを伝える。しかし。


「ダメよ」


 話を聞くなり、二尉は首を横に振った。


「みんながカーシーさんを探したい気持ちはよく分かる。けどね、すでに奥尻島から半径100キロメートルくらいは敵に制空権を抑えられている、と考えた方がいい。羊蹄山で空から捜索なんかしていたら、間違いなく敵の無人機が飛んでくるわ」


「それでも……ぼくらなら戦えると思うんです」と、巧也。「無人機との戦いなら、たぶんぼくらが一番経験豊富でしょう。タイプSは敵の無人機とほとんど同じ性能でしたよね?」


「そうだけど……Jスコはもう解散したの。君らは二度とリアルな機体に乗ることはない。この状況でそれをしてしまったら、私は君らの親御さんとの約束を破ることになってしまう。だから許可は出来ないわ」


「でも……このままでは、いずれこの基地も攻撃されてしまいますよ。そしたら、ぼくらだって無事でいられるとは限らない」


「地下の教室にいれば、大丈夫って言ったでしょ?」と、町田二尉。


「でも……ずっと地下にいるわけにもいかないですよね。それに……ぼくらが地下で救援を待っている間に基地が敵に占領されたら……どうなりますか?」 


「それは……」二尉は口ごもってしまう。巧也はさらに畳みかけた。


「今の戦況をまとめてみたんですけど、こちらの損害が F-15 5機、F-23J 1機の合計6機に対して、向こうの損害はたったの2機です。少なくとも、戦闘機の戦力ではどう考えても負けてます。だけど、シノの分析では、残っているF-23Jをフル稼働させればこの差をもう少し縮めるか、うまくやれば逆転出来るかもしれないんです。そして……それができるパイロットは、ぼくらしかいない。攻撃は最大の防御です。それがこの基地の皆を守り、ぼくら自身も守ることになる、一番いい方法だと思うんです。それでも……ダメなんですか?」


「……」


 黙ったまま、町田二尉は辛そうにうつむいた。


「お願いです、町田二尉。ぼくらはもう、誰かが悲しむのを見たくない……」


「……!」


 二尉が、はっと顔を上げる。


「ぼくらが空で、皆を守ります。だから……」


「ガキがナマいってんじゃないよ!」


 町田二尉の怒声が、巧也の言葉を断ち切った。


「!」


 巧也は息をのむ。町田二尉の顔はまるで般若の面のようだった。


「まったく、あんたたちって言う子は……ほんとにもう……」


 吐き出すように言った後で、町田二尉は四人に背を向ける。


「明日、宇治原三佐に聞いてみるわ。それで許可されれば、Jスコを……復活させます」


「町田二尉!」四人の顔がいっせいに明るくなる。


 背を向けたまま、町田二尉は続ける。声も肩も震えていた。


「最初から分かってたけど……やっぱ、君たちはバカよ。大バカだわ」


「「「ありがとうございます!」」」


 四人の声が揃った。


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