10
千歳基地、Jスコ関係者宿舎。
せめて装備を下ろしてからにしてほしかった。宿舎に着いた時、巧也は汗まみれになっていた。それでも足の遅いしのぶに合わせて走ってきたため、さほど息は切れていない。
それに比べて、しのぶは限界だった。宿舎に入った瞬間、彼女は崩れ落ちるように両手両膝を床について荒く呼吸する。
「はぁっ……はぁっ……」
「シノ、大丈夫?」
町田二尉が声を掛ける。彼女は息が切れてないどころか汗すらかいていないようだった。やはり現役の自衛官は体力が違う。巧也は町田二尉を見直していた。
「大丈夫……です……」
蚊の鳴くような声でしのぶが応える。
「もう少し頑張って。地下に入ったらしばらく動かなくていいから。さ、立てる?」
「はい……」
二尉が差し出した右手をしのぶは握る。その手に引かれるようにして彼女は立ち上がった。
「ありがとう……ございます……」と、しのぶ。
「どういたしまして」一瞬ニコッとするが、町田二尉はすぐに真顔に戻る。「それじゃ、しばらく地下に入っていてね。君らが入ったら非常扉を閉めるから。そっちからは開かなくなるけど、電話で連絡出来るし換気も問題ないから。いいわね?」
「え、ええ……それはいいんですけど……」と、巧也。
「タク、どうしたの?」
「何が起きたのか、教えてもらえないですか? ジャミングがかけられているみたいですけど……」
「!」町田二尉は、明らかにギクリとしたようだった。「……さすがね。そこまで見抜くとは。そうよ。今、道内全体にわたって大規模な電波障害が発生している。こちらの推測ではバラージ・ジャミングね」
そこまで町田二尉が言った、その時。
雷のような大音響が響き渡る。
「
「え……それじゃ、町田二尉もここにいた方がいいんじゃないですか?」
「バカなこと言わないで」二尉は首を横に振る。「私は自衛官よ。こういう状況から国民を守るための、ね。避難なんかしてられないわ。でも、あなたたちは死なせるわけにはいかない。だから、ここに入って安全な状況になるまで待機してなさい」
「でも……ぼくらだって自衛官なんじゃ……」
「違うわ。あなたたちはまだ学生。私たちに守られる立場よ」
そこで町田二尉は顔を引き締める。
「もう時間がない。あなたたちは地下に避難しなさい。これは命令よ。いいわね?」
「……わかりました」巧也が、そしてしのぶが敬礼する。
「あ、それから、タク」二尉がギロリと巧也をにらみ付ける。声が低くなり凄みを増していた。「シノと二人っきりで密室にいるからといって……変なことしたら……タダじゃおかないからね……」
「りょ、了解であります!」
焦った顔で、巧也は再び敬礼した。
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