7

 その頃、千歳基地の駐機場エプロンでは。


「ようしノブ、今度はぼくの勝ちだな」


 F-23J 001 号機のコクピットで、巧也はしのぶとシミュレーション対戦していた。コクピットスタンバイでの警戒待機アラートは、基本的に何もやることがない。時間を無駄にしないために、二人は自主的にシミュレータモードで訓練を行っていたのだ。


『そうは行かないよ、タク』


 ”ノブ”モードのしのぶが、(仮想の)機体をひるがえらせる。


「おっと、その手はすでに予想済みだ」


 巧也が操縦桿を倒した、その時だった。


 突然、ヘッドフォンにすさまじい雑音が飛び込んでくる。


「!」


 巧也はHMDをはね上げ、無線ラジオパネルに視線を走らせる。入感あり。かなり電波が強い。チャンネルを変えてみる。どのチャンネルも同じ状況だった。


「アイ、何が起こったんだ?」


「分かりません」アイが答える。「無線が使用不能、GPSも受信出来ません。おそらく敵の大規模なECM攻撃と考えられます」


「なんだって……?」


『タク、大丈夫?』しのぶだった。


「ああ。ノブ、これって何が起こったんだと思う?」


『たぶん、弾幕バラージジャミングじゃないかな』


「バラージ・ジャミング?」


『うん。あらゆる周波数の電波をものすごい出力で送信する、という……昔ながらのジャミングの方法だよ』


「あれ? でもぼくら、話せてるよね?」


『今ボクらが会話に使っている回線は、有線で基地内のネットワークに繋がっているからね。電波妨害は関係ないよ』


「なるほど」


 巧也がうなずいた、その時。


「タク! シノ!」


 声の方を見下ろすと、町田二尉だった。血相を変え、地面の上で息を弾ませている。


「どうしたんです……」巧也の言葉にかぶせるように、二尉が大声を上げる。


「二人とも、すぐに機体を降りて! これは命令よ!」


「!」


 その一言で巧也は、これはただ事ではない、と悟る。


 急いで搭乗はしごを駆け降りると、しのぶも隣に並ぶ002号機からすぐに降りてきた。


「二人とも急いで宿舎に戻って。そして地下の教室に入りなさい。私も行くから」


「ええと、どうしてですか?」


「説明している時間はないわ。駆け足――進め!」


「!」


 そう命令されると巧也としのぶも従わざるを得ない。二人はあわてて走り出す。


---

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る