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 しかし、譲の機体は敵の鼻先をかすめただけだった。


「!?」


 ”ジョーのヤツ、体当たりに失敗したのか……?”


 安堵する巧也の耳に、無線から譲の叫び声が飛び込む。


『今だ、タク! 早く撃て!』


「ええっ?」


 敵機に戻した巧也の両目が大きく見開かれた。敵機の排気ノズルから大量の黒煙が吐き出されていたのだ。


 ”……そうか!”


 ようやく巧也は譲の意図いとを察した。彼は決して体当たりを失敗したわけではなかった。彼の真の狙いは、敵の前方を超音速で通り過ぎて衝撃波を浴びせ、敵機のエンジンに入るはずの空気を吹き飛ばし、エンジンを止めてしまうことだったのだ。しかし、一歩間違えば本当に体当たりになってしまう、あまりにも危険な戦法だった。


 エンジンが止まれば、もはや戦闘機は手足をもがれたようなものだ。しかし、モタモタしていたら敵もエンジンを再始動してしまう。巧也は確実に敵を照準に収める。


「タク、機関砲発射フォックス・スリー


 3秒後。


 巧也が発射した5発の機関砲弾が、敵機を直撃した。


『やったあああ!』譲が気炎を揚げる。


「ジョー、君のおかげだ。あんなの誰もマネできないよ。さすがジョーだ」


『いや、以前、DFで似たような状況になってな。武器がビンゴ残数ゼロで、悔しくて、せめて衝撃波でも食らわしてやる! って思ってやったらさ、なんと撃墜できちまったんだよな。それで今回もやってみたのさ。名付けて……乱気流タービュランスアタック!』


「……」


 タービュランス・アタック……なんだかムダにかっこいいネーミングだった。


『これで、シノの仇は取れたな……』


「ああ……」


 巧也が小さくため息をついた、その時だった。


『ありがとう……』


「!?」


 巧也は心臓が飛び出たかと思う。それは確かに、しのぶの声だったのだ。


「し、シノ……?」


『うん……わたしは無事だよ……ごめんね、心配かけて……』


「シノ、今、どこにいるの?」


『高度2千メートルを水平飛行してる。エリーも一緒だよ』


「そうか……よかった。本当に、よかった……」


 体の力がぐったりと抜けるのを、巧也は感じる。


『シノ……本当に大丈夫なのか? いったい何が起こったんだ?』と、譲。


『うん……実はね……』


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