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 夕食後、巧也は自分の部屋に戻ってきた。譲はいない。彼は食堂に用意されたパソコンで、ひたすら操縦桿とスロットル、ペダルの操作の練習に打ち込んでいるのだ。普段はチャラい雰囲気を身にまとっているが、意外に譲は努力家らしい。巧也は初めて出会ったときに抱いた譲への印象を少し改める。


 地下の教室で宇治原三佐から渡されたUSBメモリを、巧也はさっそくタブレットに差し込む。ややあって、トップ画面に「アイ」と名前の付いた、女の子の顔のようなアイコンが追加された。彼はそれをタップしてみる。


 すると、いきなりアニメ調の女の子が画面に表示された。着ているのは町田二尉と同じ自衛隊の制服。女の子はネットの動画サイトで見られるバーチャルアイドルのように、髪をふわふわ揺らしたり表情をつけたりして喋り始めた。


「コンバンハ! 初めまして! 私、AIのアイです! タクさんですね? よろしくお願いします!」


 これまたアニメ声だった。正直、あまり巧也の好みではなかったが、耐えられないというほどでもない。


「……これ、どうやって操作したらいいんだ?」


 その巧也のつぶやきを、アイは聞き逃していなかった。


「普通に日本語でお話ししてください! 音声認識できますから!」


「そうなの?」思わず巧也は聞き返す。


「はい! タクさん、もし私の今の姿や声がお気に召さなければ、キャラメイクモードでお好きなように変更できますよ。あ、ただ、声はあまり変更しない方がいいかもです」


「どうして?」


「実は私、戦闘機のコクピットの中でも聞こえやすいように、高い声になっているんです。だから、タクさんがどうしても嫌でなければ、声は変えない方がおすすめですよ」


「……」


 巧也は感心する。なるほど。ダテにアニメ声ってわけじゃないんだ。ちゃんと考えられてるんだな。


「タクさん、キャラメイクモードに入りますか?」


 画面の中のアイが、にこやかに問いかける。


「キャラメイクは、いつでもできるの?」と、巧也。


「ええ。お好きな時に、お好きなようにできます」


「そうか」


 アバターのキャラメイクができるゲームなら、巧也もいくつかプレイしたことがある。だが、彼はあまりキャラの外見にこだわらないので、いつもほとんどデフォルトに近い状態のアバターを使っていた。今回もこのままで十分だろう。


「とりあえず今はそのままでいいよ」


「名前も、”アイ”のままでよろしいですか?」


「いいよ。短くて呼びやすいし」


「ありがとうございます! それではタクさん、何か私にお聞きになりたいこと、ありますか?」


「……」


 アイにそう言われて、巧也はしばらく考え込む。


「うーん……いっぱいありすぎて、逆に何を聞いたらいいのか、わかんないなぁ……」


「でしたら、何かお聞きになりたいことが見つかった時に、いつでも呼んでください!」


「分かったよ」


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