第10話 ダンジョンコア

 ハルカはもはや人が通る為とは言えない通路を進んでいく。床や壁から飛び出している障害物は全て剣で斬り捨て、穴が空いてる所は飛び越えながらダンジョンの最奥を目指す。


「ここにもいない。三人ともどこにいるんだろ。もっと奥なのかな? それにもう一つのパーティも見えないし」


 ハルカの雷撃によってダンジョンは完全に動きは止まっており、そこら中に焦げた魔物が転がっている。ちなみにフロートによって地上に上がった状態で倒した場合や、ダンジョンから出てきた魔物を倒した場合はすぐに霧となって消えてしまう。しかし、何故かダンジョン内で倒した場合のみ死骸として残るのだ。

 そのため、街や村で流通している肉や、骨や皮などから作られる薬に衣服等は全て、ダンジョンから持ち帰られた魔物が元になっていた。


「動いてる魔物ほとんどいないや。これだけ倒したのなら素材とかでたくさん稼げそうだけど、この状態だと持って帰ってもあんまりお金にならないかも。せめてもう少し焼き焦げてなかったら……」

『マスター?』

「ん? なぁに? ティズちゃん」

『これら全てを討伐したのはマスターですが、もうお忘れですか?』

「…………んぇ?」

『可愛らしくとぼけてもダメです』

「と、とぼけてるんじゃないよ!? え、これやったの私なの!?」

『肯定。先程の攻撃によってダンジョン内のほとんどの魔物は倒されたようです』

「これ全部私が……。う、う〜ん? 倒した所見た訳じゃないから、実感わかないなぁ」


 ハルカはいまいち自分がやったという自覚が無いまま再び歩き出した。


 奥に進むにつれて通路のうねりが酷くなり、ダンジョンフロートの経過が目に見えてハッキリとわかる様になってきた。壁の焦げも層を下がっていく度に薄くなっている。

 そしてふとそんな壁を見た時、ハルカは何かに気付く。


「壁から剣? なんで──っ! これって!」


 壁から突き出た剣。それを握る手。その先を目で追うと、そこには壁に埋め込まれて絶命している冒険者の姿があった。

 持っていたランタンと共に視線を横にずらすと、他にも三人壁に埋まっている。……何かから逃げるような体勢のままで。


「ウソ……この人達ってもう一つのパーティの四人だよね? あの受付の人、ミリア達以外にはこのダンジョンに入ったのは一組だけって言ってたし。なんでこんなことになったのかはわからないけど、せめて装備の一つだけでも持ち帰ってあげた方がいいよね」


 そう言いながら壁に剣を突き刺した時だ。


「きゃっ! な、なに? 壁が……動いてる?」


 四人が埋められた壁が突然ウネウネと動き出し、そのまま四人全員を完全に飲み込んでしまう。


「もしかしてまだ生きてるの!?」

『恐らく下層の方には強く届かなかったと思われます。そのため、麻痺状態だったのが突然動いたのかと。それにダンジョンは基本的にコアを破壊しない限りは完全に停止することはありません。全てが破壊されて壊されようともコアがある限りは何度でも生まれます』

「そんな……。じゃあ早くみんなのこと見付けないと!」

『いえ、どうやらそれよりも先にやることがありそうです』

「どういうこと?」

『マスター。おそらく次のフロアが最下層のダンジョンコアの間です』

「先にコアを壊した方が早いってこと?」

『はい。恐らく先程の胎動は麻痺が溶ける前兆でしょう。その前に──』

「わかった。行こう。早くしないと」


 そして、ハルカは最下層への階段を降りていった。


「これが……」


 階段を降りてすぐ目の前にある大きな扉。その表面には血管の様なものが浮かび、ドクンドクンと波打っている。


「こんなの見たことないよ……」

『フロートの影響で表に出てきたのだと推測されます』

「じゃあ……行くよ」


 ゆっくりと扉を押し、中に入ると同時にフロアの中に光が灯る。炎や魔道具で明るくなった訳ではなく、壁に埋め込まれた石が光り輝いてまるで昼間のような明るさだ。


 そしてそのフロアの中央に置かれた台座の上には赤く光る球体が置かれていた。


「あれがダンジョンコア。あれさえ壊せば……」


 ハルカがそう言って剣を構えた瞬間、台座の下から大きな口が現れてコアを飲み込んでしまう。そしてそのまま地面から現れたのは巨大なカエルのような魔物。大きな二つの目がハルカの事を見ていた。



「え? え? なにあれ!?」

『マスター、アレはダンジョンコアの意思です。フロートする前でしたら通常はフロアボスしか出現しませんが、フロートすることによってコアが意志を持ち、自身を守ろうとするのです』

「つまりアレを倒さないとコアは壊せないってこと?」

『はい。マスター、来ます!』

「っ!」


 突然目の前に伸びてきた長い舌。それを横に飛んで回避したハルカはそのままその舌の先端を斬り落とす。


「う、うぅ〜〜〜!」

『マスター? どうしました? 攻撃は効いています。追撃を』

「わ、わかってる! わかってるけどぉ!」

『マスター?』


 ティズが不思議そうに問いかける。するとハルカは顔を青ざめて汗を垂らしながら叫んだ。


「カエル気持ち悪いんだもんっ! 男の時は平気だったのに! なんでぇ〜!?!?」


 ここに来て女になった弊害がハルカを襲っていた。


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