第181話・ロンドン封鎖網を解除せよ2

「こちらヘルムヴィーケ。記者室での忠告及びアドバイス完了です」


 記者室で珍問答に付き合っていたヘルムヴィーケは、部屋から出るとすぐさまオクタ・ワンに連絡を入れる。

 少なくとも、今のヘルムヴィーケやイスカンダル、オクタ・ワン、ヒルデガルドは、ミサキのいるバッキンガム宮殿から出ることはない。

 ミサキからの勅命でもない限りは、今はミサキの身を守る事が至上命令である。


『了解です。イスカンダルと協力して、このバッキンガム宮殿の防衛に当たってください。先程、上空から監視中のサテライト部隊から、高速道路を走る軍勢を確認したそうです』

「了解。ディフェンスモードに移行。武器の使用を許可してください」


 そう告げてから、ヘルムヴィーケはスカートの中から高周波トンファーを取り出して両手に装着する。


『どうせ、もう装備しているのでしょうから構いませんと、ミサキさまが申しております』

「感謝します。それでは火急かつ速やかに、攻撃的な防御モードを開始します」


──ガッシャァァォァン

 ヘルムヴィーケの送信の直後、廊下のガラスを突き破って催涙弾が落下する。

 だが、それを素早く拾い上げると、窓の外に向かってマサカリ投法で投げ返す‼︎


「申し訳ないけれど、こんなガス程度でミサキさま直属部隊ワルキューレが止められると思っているのですか?」


 静かに口ずさむヘルムヴィーケだが、その直後にまたしても催涙弾が飛んでくるが。

──カッキィィィィン

 今度は高周波トンファーでのアッパースイング。

 飛距離と角度を考えると、グリーンモンスターは軽く越えられる。

 だが、今度は様々な角度から二発、三発と立て続けに飛んでくるが、次々とそれを拾い上げては投げ返していく。


「……うん、解析完了。この建物を破壊したくないのか、もしくは女王陛下に怪我をさせたくないのか。いずれにしても、ここにはミサキさまがいます。そこに攻撃してくるということを、身をもって思い知ってください」


──カッキィィィィン

 両手の高周波トンファーを打ち鳴らすと、ヘルムヴィーケは素早く窓の外に飛び出す。

 ヘルムヴィーケ式、攻撃的なディフェンスが始まった。


………

……


「……本当に、大丈夫かしら?」


 同、宮殿内接見室には、ミサキとマルガレートが避難していた。

 襲撃が起こった時点で、マルガレートに導かれてミサキも部屋に入ると、すぐさま無限収納クラインから『小型フォースフィールド発生装置』を取り出して起動。

 部屋全体をフォースフィールドで包み込んだのである。


「クィーン。このフォースフィールドの防御力は絶大です。たとえ戦艦の砲撃があっても傷一つつくことはありません」


 テーブル上の紅茶を手に取って飲みつつ、ミサキがにこやかに告げるのだが。


「いえ、それに関しては全面的に信頼しています。私が心配しているのは、地球防衛軍に動かされてしまった我が国の軍人たちです」

「え? それはどういうこと?」

「彼らは、この英国を守る軍人。そんな人たちを、自分たちの都合の良いように手駒にするなんて、決して許されるはずはありません」


 そう告げてから、マルガレートは傍に置かれているバッグから書類を取り出してミサキに手渡す。


「これは?」

「賢人機関から送られてきたレポートです。それによりますと、地球防衛軍に操られていた軍人たちには、脳内に共通する血栓のようなものが出来上がっています」

「……嘘だろ、こんな事細かなレポート、私は見せてもらっていないですよ」

「マイロード。私たちは見せて貰いました。その頃のマイロードは、隣室でノイマンとコンピュータ談義に夢中でしたよ」

「あ、そのタイミングね。理解した」


 これは自分のミスと笑いつつ、目は真剣にレポートを読む。

 確かに、全ての軍人に共通するのは【左脳の思考を司る部分】付近に、小さな血栓ができていること。

 まあ、健全で酒が好きな人間なら、多少のコレステロールが付着しているものだけど、これはどう見ても異常。

 しかも、その次のページに書いてある説明で、ミサキは絶句する。


「人為的に作られた血栓?」

「ええ。恐らくだけど、地球防衛軍として使われている軍人たちは、何らかの薬品を投与されているのじゃないかしら」

「まあ、ここのレポートを見る限りでは、そのような懸念事項がありますが……オクタ・ワン‼︎」

「了解です。すぐさまタケミカヅチに収容されている敵兵士を検査してみます」

「よろしく頼む。しかし、これは余りにも盲点すぎて……ありがとうございます」


 レポートを閉じてマルガレートに戻す。

 するとマルガレートも安堵の顔をして、紅茶を飲み始めた。


「賢人機関のアルバートからは、このレポートは誰にも見せないようにって言われていたのよ。でも、貴方なら、私が信じた相手なら、見せても構わないと思ってね」

「感謝します。ひょっとしたら、今回の地球防衛軍の動きを止められるかもしれません」


 まだ確定情報はない。

 それでも、ミサキはこれから起こるだろう出来事に確信を持っていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──トルコ・アララト山麓。

 そこは、監視者たちの子孫が住んでいた村。

 だが、現在は無人である。

 地球防衛軍が動き出してから、村の人たちは皆、アララト山の中に眠る『母船」へと避難している。

 いつか、地球防衛軍を名乗る戦士たちが、この地にやってくる時のために。


──キィィィィィン‼︎

 その日。

 上空から一隻の飛行艇が飛んできた。

 それは雪原に不時着すると、すぐさま十二名の兵士たちが飛行艇から飛び出してくる。


「なぁ、ガーデンツィオ。本当に奴らはここにくるのか?」


 戦闘用装備を下ろしながら、メリクリがリーダーのガーデンツィオに問いかける。

 他のメンバーたちも笑いながら荷物をまとめ上げると、すぐに出撃の準備を終えている。


「俺の感だ。奴らはここにくる、それまでに、この地に眠る母艦を奪取する。奴らの秘密は、この地に眠っている‼︎ 野郎共、出撃だ‼︎」


 景気よく銃を引き抜いてさらにぶっ放すガーデンツィオ。

 アマノムラクモ特殊部隊『ディーガイズ』。

 なんでもやり過ぎる彼らが、ついに監視者たちの母艦へと向かい始めた。

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