第179話・バスター、バスター、バスター‼︎

 かつて。


 ドイツが生んだ空の王者『ハンス・ルーデル』は、対戦車撃墜能力の高さ故に、タンクバスターの二つ名を得ていた。

 戦車だけでも一個師団とほぼ同数を単独で撃破、輸送車両その他を加えると、ゆうに1000機を超える数を破壊している。

 高高度からの急降下奇襲、ジェリコのラッパをかき鳴らし飛んでくるルーデルに対して、彼を知るものは、その圧倒的なまでの戦闘力に言葉を失い、ただ逃げることを選択するしかなかった。


………

……


『ピッ……聞こえますかルーデル。現在位置から南東に23500メートルに、敵列車砲があります。破壊できますか?』


──ココンコン

 通信から聞こえてくる声に、ルーデルはヘルメットを軽くる指先で叩いて合図する。


『ピッ……了解。健闘を祈ります』


 タケミカヅチ内部、臨時賢人機関司令室では、ノイマンがモニターを見ながらルーデルに指示を出している。

 この短期間で、賢人機関内部にあった資料その他は全てタケミカヅチに運び終えている。

 この後に始まるであろう地球防衛軍を相手するには、賢人機関の構造物では攻撃に耐えられないだろうとトラス・ワンが進言。

 その上で賢人機関内部に短距離移動用のモノリスを設置、サーバントたちが荷物の搬入を終えていた。


「列車砲か……我が祖国が開発した兵器が、このイギリスの地で、全く見知らぬ敵が操っている……冗談にしても、笑えないな」


 彼を顧問として迎え入れ、開発を行なった戦闘機がフェアチャイルド製A-10サンダーボルト。

 かの機体の設計思想の一部は、ルーデル本人の助言に基づくものであるが、まさかその発展型とも呼べるアマノムラクモ製A-10ライトニングボルトを駆るなどとは、彼も考えていなかっただろう。


 賢人機関で目覚めたとき、ルーデルは失意の底にあった。

 クローニングによる魂の定着率89%、記憶保持率91.5%。

 目覚めたときのルーデルの頭の中は、まだ1941年でありドイツ軍兵士であり、敬愛なるヒトラーの配下であった。

 その彼に教育を施し、今、この世界が彼の死去数十年先の未来であることを説明。

 ようやく今がルーデルの知る時代でないことを理解してからは、彼は現代兵器についての勉強を開始。

 決してカール・グスタフに師事することなく独自で戦闘技術の訓練を行なっている。


 その間にも幾度となく調整が行われ、つい最近になり最終調整が完了。

 そして外の世界に出たとき、ミサキと出会い、彼女を敬愛した。


「……後方から敵機。ラファールとかいうフランスの戦闘機か」


 ルーデルは意識を額に集める。

 ライトニングボルトは、『思考制御システム』が搭載されており、機体中央に存在する小型戦闘用魔導頭脳『フェルデナント』がルーデルの思考から全てのサポートをおこなっている。


──ガゴン

 両翼下に配置されている増槽型ウェポンラック。

 その内部にはGAU-8アヴェンジャーが搭載されており、百八十度まで回頭することができる。

 ヘルメット型のヘッドセットには、普通に風防から見える光景に加えて、機体各部のセンサーシステムが検知した対象物を瞬時に映し出している。


「後方右……12秒」


──BROOOOOOOOOOM‼︎

 左翼のアヴェンジャーが12秒の斉射。

 これによりキャノピーごと機体が破壊されたラファールは、鉄屑となって落下していく。


「直上から二機一組で……か」


──ガガガガガガガガガ

 激しい銃撃が機体胴部に向けて斉射される。

 そのまま機体右舷を真っ直ぐに交差するように降下していくラファール二機だが、その攻撃は全て機体表面に薄く張り巡らされているフォースシールドにより弾かれている。


『……後方、R550マジック2』


 ラファールから射出された短距離空対空ミサイル『R550』。

 それがライトニングボルト後方に飛んでくるのだが、すぐさま両翼のアヴェンジャーが全て迎撃。

 一発も直撃することなく、ルーデルは眼前の鉄道にて鎮座している列車砲をターゲットに捉える。


………

……


「なんだと、列車砲の弾丸すら弾き飛ばすだと‼︎」


 列車砲を指揮している地球防衛軍のプラウド・マードリックは、報告を受けて耳を疑った。

 このクルップ車製80cm列車砲の直撃を受けて、無事でいられるものなど存在しない。

 かつて三機作られる予定であった列車砲は、一号機グスタフ、二号機ドーラが実戦投入された時点で製造は終了。

 残された三号機の図面と部品などは闇に葬られたのであるが、それを地球防衛軍が発見し、現代の技術により蘇っている。

 いわば、『戦争の遺品』などではなく、現代に蘇った『最新型・列車砲』なのである。

 その攻撃を受けても、バッキンガム宮殿に傷一つつけることはできないとなると、今度は敵の反撃が来ることが予測されている。


「……すぐさま移動を開始しますか」

「いや、まだイギリス空軍は動けない。あそこの管制塔も、我らが同志が抑えているからな。次弾装填‼︎」


──ゴゴゴゴゴ

 かつては一時間に三発程度しか打ち出せなかった80cm砲も、大型自動給弾システムにより五分に一発は打ち出す事が可能となった。

 それでも、イギリスの街並みを可能な限りは破壊したくないというプラウドは、バッキンガム宮殿へ再び砲撃を行うように命令。


「……敵襲‼︎」

「なんだと、何処からだ‼︎」


 観測員が、列車砲の直上から飛来する戦闘機を確認した。

 最悪なことに、列車砲は線路上を移動することしかできず、このように直上からの攻撃となると対応策は存在しなかった。


 昔は。


「対空弾幕‼︎ 絶対に近づけるな‼︎」

「了解です‼︎」


 列車砲の前後、合計六箇所に設置された対空砲が、飛来するルーデルのライトニングボルトを捉える。

 しかし、その攻撃は掠ることもなく、ライトニングボルトは飛んでくる。


「敵機直撃‼︎ 弾かれました‼︎」

「なんだと、弾幕薄いのか、何をやっている‼︎」

「いえ、そうではありません。弾かれたのです、直撃して、弾かれました」


──フヴァァァァァァァォァァン

 そして聞こえてくるジェリコのラッパ。

 観測員たちの顔色は真っ青になり、プラウドの指示を待った。


「慌てるな、この三号列車砲ゲイボルクの上部装甲を貫くような機関砲を積めるはずがない。せいぜいが豆鉄砲程度、このゲイボルクを貫きたければ、アヴェンジャーを三台ほど並べて見ろ‼︎」


 この地がイギリスであり、アメリカ製Aー10が飛んで来るはずがないと、プラウドは、自信満々で叫ぶ。

 だが、観測員が上部映像をモニターに映し出したとき、プラウドは椅子から飛び降りて後部ハッチに向かってはしり出した。

 機首及び両翼にアヴェンジャーを搭載したA-10が、ジェリコのラッパを鳴らして降下してくるのである。


「そ、そんなバカな、翼にもアヴェンジャーだと、そんなバランスの悪い機体、あのルーデルでもない限り……」


──ドガガガゴガガゴガガ

 プラウドの言葉は、機関砲の直撃音でかき消される。

 数分後に三号列車砲は爆発し、乗組員諸共、スクラップの山を形成した。


 アマノムラクモ製最新型マーギア・リッター。

 それは、地球の戦闘機A-10サンダーボルトの姿をした、人型でないマーギア・リッターであった。


「こちらルーデル。これよりタケミカヅチに帰還する」


 操縦桿を引きながら、ルーデルは久しぶりの青空を堪能した。

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