第176話・顛末と後始末と、まだまだ元気なやつ
アメリカ国防総省、ロシアのクレムリン、そして日本の国会議事堂。
この三箇所同時軍事クーデターは、すこし遅れて鎮圧の完了した日本からの報告により幕を閉じた。
その翌週には国連本部にて緊急特別総会が始まり、今また水面下に姿を消した地球防衛軍の対応について協議が始まった。
正面及び各テーブルにモニターが設置され、クーデターを受けた三カ国の詳細な情報が映し出される中、地球防衛軍の拠点やその規模、どのようにして普通の人間を洗脳のように操れるかなどの話し合いが行われている。
「……海兵隊の中にもかなりの規模の地球防衛軍の兵士が紛れ込んでいたことは、実に腹ただしく、また悲しい事態でした。今現在は、すべての海兵隊員に対してのメディカルチェック及び問診、過去の経歴関係の調査を行っています」
「ロシアも同じだ。大統領親衛隊に至るまで事細かいチェックを行ってある。特に軍事分野については、500項目に及ぶチェックリストを用意している」
「日本も自衛隊員などに聞き取り調査を行っています。また、メディカルチェックもおこないつつ、今後の自衛隊のあり方についても協議を行う予定です」
そう報告があってから、各国から提出してもらったメディカルデータが写し出される。
ある特定波長に反応するとか、ある言葉や単語に反応するということはなく、地球防衛軍の兵士となった軍人たちは皆一様に、【自分の意思】で行動している。
さらには、そのように動いた者たちは通信機などを使用することなく。意思や感覚を共有していたらしい節も見え隠れしている。
もしもこれが事実なら。
まだ表に出ていない、いつでも地球防衛軍の兵士となる人間がかなりいるのではないだろうか。
それも数十人とかではなく、最悪は一万人、十万人単位で。
「……今の地球の技術では、彼ら兵士たちの体内からは何も検出できていません。やはり惑星スターゲイザーの力を借りる必要があるのでは?」
ある国の大統領が提案する。
「その上で、我が国がホスト国として彼らを迎え入れましょう。幸いなことに、我が国の港湾施設はあの巨大な宇宙船を受けいれできるように大幅な改造を行なっているところであります」
「その件ですが、じつは我が日本国はスターゲイザーの星王ミサキさまと極秘裏に話し合いが行われまして」
隣国の大統領がドヤ顔で日本の国連大使を見ながら話をおこなったので、日本の国連大使も切り札を切る。
すでに国会議事堂解放作戦後の報告の場で、星澤知事はスターゲイザーの星王ミサキとの極秘会談があり、今回の奪還作戦にも協力してもらえたという報告を受けている。
すぐさま予算委員会が行われ、超法規的に日本国内のどこかに『スターゲイザー専用港湾施設』が建造される事となっている。
「そ、それは本当なのか?」
「一体いつの間に、なぜ日本なのだ‼︎」
「どうやって連絡したのですか? それよりもそのような大きな話なら、ヨーロッパの代表である我が国が手を挙げます」
「アジアの代表である中国もだ。我が国の領土の一部を開放しても構わない。なんならば、あの島をスターゲイザー駐留都市として開発しても構わない」
「我がアメリカにはモノリスがある。同然ながらスターゲイザー駐留については手を挙げさせてもらう」
フランスが、中国が、そしてアメリカが。
日本の独断専行を許さずという感じに提案する。
「ふん。好きにすればいい……」
ロシア大使だけは、そのくだらない言い争いには参加せず、静かに成り行きを見守っている。
既にフーディン大統領は、スターゲイザーとの通信回線を開いている。
国交その他の条約などの話し合いを行うかどうかについては、現在は向こうからの連絡待ちとなっている。
それでも、いつでも連絡できる手段を手に入れてあるという自負が、ロシアにはあった。
「日本も、あんな事をこの場で言わずに、全て終わってから話をすればよかったものを」
そう呟くロシア大使の声など、お互いの顔を見ていがみ合う日本と隣国大使の耳には届いていなかった。
「それでは、ここからは賢人機関が仕切らせてもらいます。まず一つ目、地球防衛軍の兵士の見分けかたについてです」
壇上では、賢人機関代表のアルバート・シュタイナーが話を始めている。
流石に未確認兵士の見分け方についての方法と言われると、どの国も言い争いから離れて壇上に視線を送る。
「脳内のいくつかの未確認野、つまり活動が不明な部分。その中の一部が、ある特定波長に対して過敏に反応する事を、我々は突き止めました」
モニターに映し出される様々な映像。
地球防衛軍兵士を解剖し、そこから得た知識。
おおよそ人道的とはいえない分野になるのだが、相手は世界的国際テロリスト集団。
その死体を有効に使うという発想が、賢人機関ならではだろう。
「この波長については、現在この場での説明は行いません。我々としてもまだ調査段階なのでね。ですが、これだけは確実にいえます」
そう告げてから、アルバートは一拍置く。
「この世界、すべての人間が、いつでもテロリストになる可能性があるという事を」
──ザワザワッ
先程の国連からの報告では、せいぜいが『十万単位』だったが、賢人機関はそれを『人類すべて』に修正。
「その波長データは公開しないのか?」
「はぁ? するわけないでしょうが。いつでもどこでも、それこそ幼い子供に至るまで、全てを兵士とする波長コントロールですよ? テロリストに感知されたら、どこの国が責任を取るのですか?」
呆れた物言いを聞いて、アルバートの声も荒くなる。
それなら全てが終わってから、改めて報告すればいいと思った国もいくつかある。
この場で話をするということががどれほど危険なのか、賢人機関はわかっていないのではないか、と。
それに、地球防衛軍の兵士たちを制御できるということは、解除も簡単なのだろうという話にもなる。
それこそ、地球防衛軍が賢人機関を狙う可能性だって高くなるだろう。
「地球防衛軍については、賢人機関の天才たちが対応策を研究中です。まあ、どの国も頑張って色々とデータを出したようですし、努力は認めましょう……」
呆れたような声で上から目線で話をするアルバート。
「皆さんの提出してくれたデータで、こちらとしてもある程度の確信に近づけたという事もありますので、この場を借りてお礼を伝えておきましょう。では、今後の研究の結果次第で、皆さんに吉報が届くように頑張らせてもらいますので」
そう話を話を締め括ると、アルバートは壇上から出て行く。
結果として、この場の大使たちには何も新しい情報はない。
ただ、賢人機関が対応策をいくつも見出しいるという話だけが、国連大使たちに、そしてカメラを通じて全世界中に届いたのである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──国連本部、賢人機関控室
壇上での話を終えたアルバートは、護衛とともに控室に戻ってくる。
そこには賢人機関のスタッフと共に、二人の人物が待機していた。
「しかし。ここまでのお膳立てをしたのだから、それなりのバックは約束してもらえるのでしょうね?」
椅子に座りながら、アルバートは近くの椅子に座っている女性に問いかける。
すると、その女性は、にっこりと笑いながら一言。
「ご安心ください。これで地球防衛軍の目的は私たちスターゲイザーの妨害ではなく、彼らを止める術を持つ賢人機関となりました。すでに私たちの精鋭が、世界各地の賢人機関拠点を警備しています」
そう話つつ、ロスヴァイゼは一つのファイルをアルバートに手渡す。
「これは?」
「そちらが、我がスターゲイザー……いえ、アマノムラクモ機関のご用意できるバックです」
「……よろしい。それでは、こちらとしても全面協力させて貰います。ですが、我々の身の安全を第一にして貰えますか? 私たちはまだ幼く、地球防衛軍の暴漢絡みを抑える術は持ち合わせていません」
「賢人お一人につき二名、スタッフにはそれぞれ一名ずつ、優秀なサーバントをおつけします。因みに私は、このまま皆さんと同行するように星王ミサキさまに命じられていますので」
これで話し合いは完了。
賢人機関という、大きな餌のかかった釣り針を、ミサキは地球に向けて投げ入れたのである。
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