第173話・本気のアマノムラクモ

 はてさて。

 北海道知事がゲストとして見ているので、こっちも本気を出すことにしますか。


「ベースワンより各位。状況の報告を」

『こちら花鳥風月。鳥は間も無く東京に到達』

「ベースワンより風月へ。ステルスフィールドの展開、ターゲットの捕獲を最優先に行動を開始せよ」

『こちら火林。ターゲット上空に間も無く到達、作戦を開始します』

「ベースワンより、了解。各員の健闘を祈る。サポートをトラス・ワンに移行、迅速かつ速やかに任務を遂行せよ」


 これでベースワンからの指示は終わり。

 あとは各部隊がどこまで『手加減しながら』自衛隊の動きに合わせられるか。

 そう、今回の忍者部隊のミッションは、日本国議員の奪還及び政治中枢の解放……ではない。

 自衛隊との合同任務により、より人間らしい戦術、戦略を身につけること。

 今までの蓄積データ全てをトラス・ワンとオクタ・ワンが精査し、より完璧な戦闘スタイル・戦術システムを構築。


 『アマノムラクモ式コンバットアーツ(ACA)』なるものを完成させていた。


 それを訓練として見せてもらったけど、これがなかなかいい感じに仕上がっているので、最後は人間相手の合同訓練で、どこまで制御できるかを検証。

 すまないな北海道知事、あんたが話を振ってきた時点で、アマノムラクモとしては有効活用させてもらうつもりだよ。

 まあ、そっちもうちらを使う気満々に感じたから、ここはWin-Winでいこうじゃないですか。


「……ミサキさま、折角ですので、いくつかお伺いしてよろしいでしょうか?」


 後ろの席で、星澤知事が話しかけてくる。

 いや、折角って、この状況を把握しているのか?


「お断りします。今は、こちらに集中していますので」

「それでは、今回の件が一段落したらどうですか? 北海道知事としては、今後も定期的にスターゲイザーとやりとりを行いたいのですが」

「だから、後にしてください。そして後でも話をする気はありません。外交関係は全て、うちの外交員を通して話をするように各国に要請する予定ですので」


 少しだけ、声に魔力を込めて返答する。

 すると知事は静かになったので、それなりに効果はあったようだ。

 なにせ、魔力を持たない相手に魔力そのものをぶつけると、畏怖や恐怖といった感情に押しつぶされるらしい。


「朔夜は火林と共に防衛省へ。花鳥風月は国会議事堂の確保。特戦群に協力してやってくれ」

『朔夜、了解でござる』

『花以下、了解でする』

「トラス・ワン、思考ルーチンの分割を。いけるよな?」

『……問題ありません。現行の作戦用に、並列頭脳『真田』『北条』を設定。引き続き作戦を遂行します』


 さあ、盛大な奪還作戦の始まりだ‼︎


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 Cー3からパラシュート降下した部隊は、それぞれ市ヶ谷防衛省方面と永田町国会議事堂方面に分かれる。

 すでに着地地点には装甲装輪車が待機しており、次々と隊員たちを載せては、目的地近くまで移動を開始した。


──市ヶ谷・防衛省

 隊員数33名による特殊部隊が、何者にも動じることなく防衛省へ向かって突撃する。


──ガッシャァァォァン

 正面入り口に装甲装輪車ごと突入すると、すぐさま車から降りて展開。

 エレベーターや階段を押さえつつ、残った隊員がまずは一階を制圧。


 問答無用で銃を撃ってくる地球防衛軍の兵士に向かって、可能な限り殺傷しないようにと暴徒鎮圧用のゴムスタンガンを用いての反撃。

 その中を、堂々とミニガンをぶら下げて朔夜が前に出ると、全身を蜂の巣のように撃たれながらもミニガンを構えた。


「死にたくない奴は、武器を捨てて五秒以内に投降するでござるよ」


──ガチャコッ

 M134機関銃。

 7.62mmを最大で100発/秒撃ち出す高性能機関銃。

 生身の人間に撃って良いものではなく、撃たれたものは痛みを感じる前に死んでしまうという。

 普通は戦車やヘリコプターに搭載するものであり、朔夜のように手に持って構えて撃てるものは存在しない。


「朔夜さん、弾倉‼︎」

「必要ないでござる‼︎」


 その忍者たちのやりとりを、特戦群は頭を傾けながら聞いている。

 機関銃なのに弾を必要としない?

 そのやりとりは地球防衛軍にも届いていたらしく、弾倉がない機関銃など飾りか脅しだと、さらに朔夜に向けて発砲を続けるが。


──ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッ

 朔夜がトリガーを引いた瞬間、彼の前方でライフルを構えていた防衛軍兵士が肉塊に変わる。


「な、なんだと‼︎」


 これには特戦群も防衛軍も驚くしかない。


「な、なんで弾が出るんだ‼︎」

「はぁ? スターゲイザー製、M134魔導ミニガンですが。弾なんて必要ありませんよ、朔夜さんの魔力を弾丸に構築して撃ち出しているだけですから」

「な、なんだそりゃあ‼︎」


 特戦群の部隊長は呆気に取られたが、さらに林がもう一丁のM134を朔夜に投げる‼︎


──ガシッ

 それを左手で受け止めると、両手を広げながらそれぞれを片手で構えた。

 Tの字に銃を構え、クルクルとダンスを踊るかのように回りながら魔導ミニガンを乱射。

 それでいて、しっかりと特戦群の方には撃つことなく、しっかりと遮蔽物に隠れている敵兵士を撃ち抜き殺していく様は、まさに狂気としか思えないだろう。


 そして五分後には第一階層が完全制圧、朔夜達はその場で待機して外からの援軍を『討伐』することにした。


………

……


──永田町、国会議事堂前

 自衛隊の装輪装甲車や最新鋭MBT・10式戦車が、正面から走ってくる特戦群の装輪装甲車を捉える。


「敵は腐敗した日本の軍だ、手加減など無用、撃てぇぇぇぇ」


──ドッゴォォォォォォン

 防衛軍の指揮官の一人が、特戦群の装輪装甲車目掛けて発砲命令。

 それと同時に、10式戦車の44口径120mm滑腔砲が火を吹く。

 無慈悲に飛びゆく徹甲弾だが、装輪装甲車から飛び出した一人の兵士が徹甲弾目掛けて右ストレート‼︎


「喰らうかァァァァァ」


──ドゴォォッ

 慣性の法則などなんのその、飛び出した兵士『月』が拳一つで徹甲弾を迎撃。

 反動は全て彼の体内にある『慣性制御システムモーションキャンセラー』により零になる。

 当然、反動が逃げない分だけ威力は高まっているのだが、アマノムラクモ製の月にとっては、所詮は『たかが120mm』である。


「では、私たちが先陣を斬りますので。そのあとはお願いします」


 花、鳥、風の三人も装輪装甲車から飛び出すと、それぞれが槍、トンファー、斬馬刀を構えて戦車や装甲車目掛けて走り出した。


『馬鹿な、直撃のはずだぞ‼︎』

『特戦群の新装備なのか? いや、そんなはずは無い。我々は、あのような兵器を見たことも聞いたこともなウワァァァァァ』


──ドンガラガッシャーン

 あまりの出来事に動揺した指揮官だが、彼が乗っていた82式指揮通信車シキツウが突然横倒しになる!


「ふう。これはまた、なかなかの重量だよなぁ中の人間、逃げないと吹き飛ぶぞ‼︎」


 月が拳をメキメキと鳴らしながら、オーバースローのように構える。

 そして大慌てで出てくる兵士を無視して、車体裏側目掛けて渾身の一撃‼︎

 まるでトラックに突撃されたかのように82式指揮通信車シキツウは車体裏から真っ二つにひん曲がり、三十メートルほど吹き飛んでいった。

 この時点で指揮は混乱し、敷地内の地球防衛軍の統制は乱れる。

 こうなると、いくら訓練された自衛官といえど烏合の衆に近くなり、各個の判断で動くしかなかった。


………

……


「……通信が生き返ったの?」


 厨房で待機していた与謝野晶子は、突然の念話モードの復旧に歓喜の声をあげる。


『……状況及び対応を圧縮念話で送ります』

「了解……では、与謝野晶子、林に移行します」


 にっこりと微笑みながら、与謝野は厨房の扉を開いて外に出る。


「……出撃かな?」

「ええ。短い間でしたけど、お世話になりました。与謝野晶子、これよりスターゲイザー忍者部隊に戻りますので、本日付で退職ということで」


 どこまで見透かされているのかわからないが、与謝野は厨房のチーフに笑いながら退職届を手渡すが。


──ピリッ

 それをあっさりと破り捨てられる。 


「休職という事で。こっちも任務に戻る必要があるからね」


 そのまま与謝野の肩を軽く叩いてから、チーフが牛刀を逆手に構えて入口めがけて走り出す。


「……嘘でしょ? チーフも特殊部隊なの?」


 国会議事堂内・参議院食堂チーフ。

 その正体は、元・特戦群で『悪鬼』という渾名をつけられたエリート自衛官であった。


「まあ、正面は任せて、私は……あっちね」


 すぐさま議事堂内に立て篭っている防衛軍幹部たちの詰所に向かう。

 そこを制圧するまでわずか三分。

 外で花鳥風月が機動部隊を制圧した二分まえの出来事である。

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