第42話・深層暗示と、ホスピタル

 深夜。


 グアム島に設置された仮設キャンプ群。

 各国から派遣された、第三帝国の飛行船の警備についている兵士、及びオーバーテクノロジーの解析のためにやってきた各国の研究員たちに割り当てられた施設である。

 昼間の調査で得られたデータをもとに解析などを行なっているのだが、いかんせん、資料が足りなすぎる。

 本当ならば、研究員たちを艦内に送り込み、専用の機材を接続して解析作業に入りたいところであるのだが、それはまだ行われないことになっていた。

 合同研究班の設置については、現在も協議が行われ、どの国が主体で行うかなどで揉めている最中である。

 

 それこそ、アマノムラクモに解析を委任し、データを提出して貰えばという意見もあったのだが、中国とフランスが反対。

 可能ならば、常任理事国のみでチームを編成したいという提案があったのだが、非常任理事国が猛反対。

 結果、内部調査は各国の代表団により同時に行う、機材は持ち込まないということで話は一旦、決着がついている。


………

……


 闇夜の中、ロシアの特殊作戦軍がアドミラル・グラーフ・シュペーに向かって移動を開始する。

 目的は、艦内にある『未知の機材』のサンプル回収。

 飛行船の警備については各国共同で行われているのだが、ロシアの割り当ての区画からなら、こっそりと内部に侵入可能である。

 そう考えて、キャンプから出動して飛行船へと向かうのだが、飛行船の手前、灯りの届かない建物の影で、ばったりと中国の特殊部隊・蛟龍と遭遇。


「………」

「………」


 お互いに銃を突きつけナイフを構えているのだが、身動きひとつ取れなくなっている。


──ガサッ

 そして近くの茂みから音が聞こえ、同時にその茂みに向かって銃を構えた瞬間、そこからSEALDsが銃を構えて出てくる。


「……」

「……」

「……」


 米中露、三カ国の特殊部隊がお互いを牽制しているが、やがてSEALDsが自分たちを指さし、キャンプ施設を指さす。

 そのモーションが理解できたのか、蛟龍も自分たちを指さしてから、自分たちのキャンプを指さす。

 そうなると特殊作戦軍も、やれやれというジェスチャーを決めてから、自分たちのキャンプに戻るように指示。

 そして、まるで何もなかったかのように、各国の特殊部隊は撤退を開始した。


………

……


「……どの国も、考えは同じか」

「アメリカとロシアを出し抜かなかったのは問題ではありますが、ここは紳士的に対応してくれたのでよしというところでしょう」


 中国キャンプの責任者は、撤退の報告を聞いて隊長を怒鳴りつけたくなったのだが、そもそもここは敵陣。

 ここで問題を起こせば、アメリカが全力で動くのは目に見えている。

 

「双方、抜け駆け禁止か。アメリカが協定を守るのなら、我々も従うしかあるまい」

「同感です。今頃は、他国の部隊も同じように報告をしていることでしょう」

「早く、飛行船に我が国の調査班を送り込みたいものだよ」

「同感です。そのためにも、イギリスとロシア、アメリカをどうにか丸め込む必要がありますな」


 代表たちは、今後の作戦をもう一度練り直す必要があると判断。だが、少なくとも特殊部隊によるサンプル回収については、諦めるしかないということで意見が一致した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……どうにか完成か。これを量産するのは難しいから、増幅器で効果範囲を拡大して、まとめて調べるしかないよなぁ」


 例のノイズコントローラーとノイズキャンセラーが完成した。

 苦節五日、思考誘導や洗脳についてのサンプルデータが足りなかったので、僅かなデータを頼りにどうにか仕上げることができた。

 だが、希少な素材を大量に使った結果、複製するのは不可能であるという結論に達した。


「マイロード。これは、どこで使用しますか?」

「そこなんだよなぁ。オクタ・ワン、各国から何か連絡は来ていないか?」

『ピッ……グアムの空軍基地からですが、今回の対第三帝国作戦の功労者であるアマノムラクモに対して、栄誉勲章を送りたいと』

「……アメリカが?」

『ピッ……勲章は国連からとなります。アメリカの提案であり、常任理事国の全会一致、及び国連総会における可決だそうで』

「なるほどなあ。それに参加して、その場で洗脳についての話と解除方法を説明すると良いかな」

『ピッ……護衛を連れて行くことをお勧めします。第三帝国絡みの事件は終わったとはいえ、アマノムラクモの存在を認めたくない国家は無数に存在します』


 話を聞くと、特に中東をはじめとする石油産出国は、アマノムラクモの国連参加に反対している。

 そもそも、魔導システム、魔力エネルギーなどのクリーンなエネルギーシステムを公開されたら、オイルマネーによって栄えている国々は死活問題である。

 それこそ、暗殺部隊が送られてきてもおかしくないそうだ、モサド?


「まあ、グアム島に一回、行ってくるよ。アンダーセン空軍基地なら、一度行ったことあるし。あそこの基地司令ならフランクな人だから、話をしてくるよ」

『ピッ……護衛を付けることをお勧めします』


 オクタ・ワンが俺にアドバイスをしてくれたのだが、艦橋にいるワルキューレが全員、ワクワクしながら俺の方を見る。

 

「はぁ。ワルキューレから護衛を二人、選出してくれるか。明日の午後に向かうからと、アンダーセン空軍基地に連絡してくれるか?」

『ピッ……了解です』

「「「「「「「ジャーンケーン、ポーン」」」」」」


 オクタ・ワンに指示していると、全員がジャンケンを始めていた。

 さて、誰がかつことやら。


………

……


──キィィィィィン

 爆音を靡かせつつ、カリバーンがアンダーセン空軍基地に着陸する。

 護衛のワルキューレはシュヴァルトライデとヒルデガルドの二人。

 さらに呂布、関羽、夏侯惇の戦闘用サーバントも護衛に参加している。しっかし、ここ一番のヒルデガルドの引きは強いなぁ。

 

 滑走路に現れた誘導員の指示に従い、マーギア・リッターを格納庫に収める。

 そして立ち膝になってコクピットから外に出ると、ミハイル・トワイニング空軍少将が俺たちを歓迎してくれた。


「ミサキ・テンドウさま。お待ちしておりました」

「こちらこそ、いきなり押しかけて申し訳ない。本来なら通信で終わらせてもよかったのだが、親書が届けられていると聞いてね」

「ハッ‼︎ こちらへどうぞ」

「ありがとう。シュヴァルトライデ、呂布、夏侯惇はマーギア・リッターの警備を頼む。ヒルデガルド、関羽は付いてきて」

「「「「「了解です」」」」」


 そのまま基地司令部の応接間に案内されると、上座に座らされて話を聞くことにした。

 手渡された親書の中身をその場で確認すると、オクタ・ワンから聞いた説明と同じ内容であったので快く承諾。

 日時その他が決定したら、アマノムラクモに連絡してもらうようにと伝えておく。


「さて、そちらの用事はこれだけだと思いますので、今度はこちらから。ヒルデガルド」

「はい。ミハイル司令、こちらをどうぞ」


 ヒルデガルドが鞄から書類を収めた封書を取り出すと、ミハイル司令に手渡す。


「これは?」

「今回の第三帝国による戦争犠牲者、『洗脳されている兵士』についてのレポートです。我がアマノムラクモは、兵士が洗脳されたままであるかどうかを調べるための魔導具の開発を行いました」


 俺が端的に説明すると、ミハイル司令の顔色が真っ青になる。

 あの戦争時、第三帝国に従属した兵士たちがどうなっているのかなんて、俺にはわからない。

 アマノムラクモが鹵獲した兵士からサンプルデータをとって、魔導具を作ったまでは良かったものの、サンプルになった兵士たちは現在は、隔離区画で普通に生活してもらっている。

 だが、他国の兵士たちがどうなっているのかなんて、俺は知らない。


「アマノムラクモの技術では、洗脳されているのかどうか、調べることができるのですか?」

「そうですね。あと、洗脳を解除する術ももっています。ですが、他国に供与する予定はありません。詳しくは封書に記してありますが、アマノムラクモが主導で行うことは可能ですと、付け加えておきます」

「……了解しました。急ぎ、ステーツに連絡を入れておきます」

「よろしくお願いします。我々としても、国境を超えた治療行為を行うことについては、やぶさかではありませんので」


 頭は下げない。

 というか、昔の癖で頭を下げそうになるのだが、ヒルデガルドやオクタ・ワンからは、頭を絶対に下げるなと言われているからね。

 さっきの言葉だって、よろしくお願いします、は必要ないんだよなぁ。


「ああ、そういえば。例の鹵獲した飛行船ですが、解析は進みましたか?」

「我々の知る技術部分については、ある程度は、それでも、内部フレームの素材などに違和感があったり、全く無傷のシステムが存在したりしていまして……」


 共同研究班を結成し、各国が共同で解析したいらしいのだが、どの国が主導でやるとか、どの国で行うとかで話が平行線らしい。

 まあ、あのバリアシステムや主砲のデータは、喉から手が出るぐらい欲しいだろうなぁ。

 俺も興味があるし、恐らくは、うちのサーバントの素材も用いているのは目に見えてるから。

 全て回収したいけど、それは無理そうだから諦めることにするよ。

 システムだって、無傷ってことは錬金術とか魔法でなんかしているはずだから、解析なんてできないだろうし。


 飛行船のことについては、国連を通しての依頼が来ないのなら、関与する必要はないか。


「さて、それでは仕事はこれぐらいにして、私たちは買い物をして帰りたいと思っていますが、よろしいでしょうか?」


 ニイッと笑いながら告げてみると、ミハイル司令は困った顔をしたのち。


「すぐに車と護衛を手配しましょう」


 とだけ、返答してくれた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 衆議院選挙。

 予想を覆すこともなく、自由国民党の圧勝で幕が降りる。

 しかも、野党は支持率が全てを語っている通り、比例代表制で残った議員はいるものの、ほぼ全滅に近い。

 とある政党など、比例で当選した一人だけ。

 それで何をするのか、国会でどう戦うのかと、国民の興味は尽きることはない。


「この選挙は、民意を反映していない‼︎ 我々は、断固として戦う‼︎」

「私たちが与党を監視しなくては、この日本は本当にダメな国になってしまいます。与党は国民の生活を考えず、自分たちに忖度する国や企業と癒着を始めるかもしれません‼︎」

「自衛隊は違憲である。戦争のない世界を作ることこそ、我らが使命ではないですか? 武器ではなく言葉。これこそが、今の日本に必要なのです」

「我が国は、隣国から多大な恩を受けています。今こそ、それを返す時であるかと思います。自国民以外にも、選挙権を与える時が来たのです。今の日本は、グローバルに目を向けなくてはなりません」


 敗北した議員たちの叫びが日夜、テレビやインターネットに響く。

 だが、マスコミが必死に取り上げたところで、国民の心には響くことはない。


………

……


「それじゃあ、まず、アマノムラクモの話しようか。我が日本国は、アマノムラクモを国家として認め、現在の様々な問題に対して、手を取り合っていきたいと考えています」


 新総理のべらんめえ口調の演説が、議会場に響く。

 そんなの聞く耳持たないと、野党は腕を組んで目を瞑り、居眠りを始める議員もいた。

 まあ、そんな議員もとある生放送では、しっかりとカメラに収められ、コメントが大炎上していたことは、いうまでもない。


 しかし。

 戦争が関与すると、本当に日本は出足が遅い。

 新政権では、その辺りをどうするか、アマノムラクモとどう話し合いを行うのか、興味は尽きることはない。

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