第39話・太平洋攻防戦・失意と高揚と絶望と
悪夢を見ているのか。
機動兵器による奇襲攻撃を行ってきたアマノムラクモに対して、アドルフはマーギア・リッターのパイロットであるサーバントの遠隔洗脳に成功。
そのまま一機はアマノムラクモ艦橋への特攻を仕掛けたものの失敗。
そして残る一機を回収しようとしたのだが、それはギリギリのところで旗機らしきマーギア・リッターに阻止されてしまった。
それならばと、アドルフは艦首砲塔によるマーギア・リッターへの攻撃を仕掛けたのだが。
「馬鹿な、直撃のはずだぞ‼︎」
思わず椅子から立ち上がって叫ぶアドルフ。
あのアマノムラクモのバリアを破壊し、装甲にまで軽微ながらもダメージを与えた主砲。
その直撃直後、膨大な爆煙によりマーギア・リッターが見えなくなったのである。
やがて爆煙が収まった時、そこには、表面装甲が吹き飛びフレームが剥き出しになったマーギア・リッターが浮かんでいたのである。
喜んでいいのか?
いや、これは脅威でしかない。
あのシールドを破壊した威力が直撃したにもかかわらず、一撃で破壊できなかったのである。
──シュゥゥゥゥ
しかも、マーギア・リッターの全身がうっすらと輝き、破壊したはずの表面装甲が再生を開始したのである。
金属が再生する?
それも、高速で、生き物のように?
あの機動兵器は、生きているのか?
「すぐさま、あの機体の操縦者を洗脳しろ、遠隔針だ、急げ‼︎ それとバリアだ、あの機体が完全再生する前に、なんとしても守りを固めろ‼︎」
「ハッ‼︎」
バリアシステムの出力を上げて、再び球状のバリアが生み出される。
同時に遠隔で誘導針を使用しているらしいが、誘導針制御システムのエンジニアは、真っ青な顔でアドルフを見る。
「ダメです、あの中には例のゴーレムの反応がありません。人間です、それも、かなり強靭な精神の持ち主かと」
「誘導針の波形を人間に合わせ直せ‼︎」
「申し訳ありません。現時点では針のキャリアーの制御が手一杯であり、新たに人間に対して遠隔針を使うことはできません」
「針を使うには、一度でも対象者に接触して打ち込む必要があります‼︎」
──ガン‼︎
力一杯、椅子の肘掛けに向かって拳を叩きつけるアドルフ。
どこかで、歯車がずれ始めている。
急いで、それを修正しなくてはならない。
「艦隊内の
「……報告します。
「……なんだと?」
あの機動兵器を鹵獲できなかったのはやむを得ない。そして、カウンターで破壊しきれなかったのも、こちらの計算ミスだ。
しかし、
我が親衛隊の中でも、薬品や暗示により人間を遥かに上回った能力を持った
「どの艦だ‼︎」
「全ての艦艇が、我が第三帝国指揮下から離れていきます」
「敵アマノムラクモの救助艇も、作業を終えて帰還している模様。指示をお願いします‼︎」
見たくない、聞きたくない。
この騒動はなんだ?
まるで、バグラチオン作戦の報告を聞いているのか? それともネプチューン作戦の報告か?
我がドイツ第三帝国の最後を、この現代で再び見せられているのか?
──グラッ
一瞬。
アドルフの身体が二重にぶれる。
サーバントを捕食して作り出した『ゴーレムボディ』に対して、自信を失いかけたアドルフの魂が拒絶反応を示したのである。
(くっ……もういい、貴様など邪魔だ‼︎)
アドルフの魂と融合していた破壊神の残滓が、アドルフの魂をゴーレムボディから叩き出す。
すると、憑き物が落ちたかのように、アドルフの魂が無表情のまま消滅するが、ゴーレムボディに残された
「た、退却……バリアだ、出力を最大にしろ、一旦、南米まで帰投する、立て直しだ」
「出力最大ですと、遠隔針のシステムが停止します。せっかく洗脳によりこちらの手に渡った兵士たちを失います」
「構わん‼︎ 先程の機動兵器が、アドミラル・グラーフ・シュペーを攻撃してきたらどうなる? 我が主砲でさえ破壊できなかったあの兵器がだ。我々は、まだ、負けるわけにはいかないのだ‼︎」
自分がこの世界に蘇ったのなら、記憶に残るかつての盟友だったクレープスやヨードル、カイテル、ブルクドルフも甦らせることはできないのか?
それも、この戦局を打破できる同志が。
ルーデルを蘇らせろ、あの機動兵器を奪って、ルーデルに与えればいい。
だが、どうやって?
死者は、蘇ることなどない。
その実験は、昔、腐るほどやってみた。
結果、一度でも死んだものは、蘇ることはない。
それが自然の摂理なのだ。
だから、死を超越した兵士を作り出した。
親衛隊を超える
それさえも敗北した。
「死を超えろ……破壊からの再生、そうだ、破壊こそ、全てではないか」
まるで自分に言い聞かせるように、アドルフは椅子に座り直す。
そして帽子を被り直してから、正面モニターを睨みつける。
記憶が混乱する。
アドルフの記憶が、
自分は何者だ?
アドルフの記憶を持った
なら、我は、アドルフでいい。
今は崩れそうな自我を保つのに、必死である。
「方角はそのまま。バリアの出力は全開で、全速で基地へ向かえ‼︎」
「ハッ‼︎」
アドミラル・グラーフ・シュペーは、何者も追いつけないほどの高速で、南米へと向かいはじめた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
なんとかアマノムラクモに帰投すると、俺はカリバーンのメンテナンスを頼んで艦橋へと戻っていた。
『ピッ……ご無事で何よりです』
「さすがはマイロードとお褒めしたいのですが……お願いですから、あのような危険な行為は謹んでください。もしも、敵砲撃の火力がもう少し高かったら、カリバーンは確実に破壊されていました」
「……了解。現在の状態を教えてほしい」
頭を下げて謝ったあと、俺は、椅子に座って報告を聞く。
『ピッ……サーバント及びワルキューレによる艦内制圧は完了。随時、敵飛行船の洗脳の射程から離れるように移動を開始しました』
「同時に、飛行船はバリアが強化されたのち、船体をゆっくりと南東に回頭。速力を上げて戦線を離脱し始めています」
「逃げるのか? 好き勝手やって、今更逃げるというのかよ、巫山戯るなよ‼︎」
お前たちのおかげで、どれだけの人が死んだと思っているんだ?
各国の破壊された戦艦や空母に乗っていた人々の命を、戦争という理由で勝手に奪い、挙句に自分たちが不利になったら逃げるってか?
『ピッ……ミサキさま、ご命令を』
「オクタ・ワン、敵の飛行船と同速度で追跡開始。トラス・ワン、全ての砲門を飛行船に合わせろ、全門斉射準備を頼む」
『……アマノムラクモの斉射では、乗っている乗員の命は保証できませんが』
トラス・ワンの言葉が、俺の心に突き刺さる。
戦争だから何をしてもいい、じゃない。
乗っていた第三帝国の兵士たちにも、責任はとってもらわないとならない。
そのためには、殺してはいけない。
「くっそ。俺が甘いのは分かっているよ……仰角調整、航行不能にできるか?」
『……可能ですが、アドルフはどうするのですか? サーバントによる捕獲となりますと、ワルキューレでは可能かもしれませんが、危険が伴います』
「……航行不能ののち、各艦隊を制圧したサーバントとワルキューレで、飛行船の制圧作戦を……だめだ、降伏勧告をしろ、まずはそこからだ‼︎」
煮え切らない。
そんなことは分かっているよ。
『ピッ……降伏勧告しました、ですが応答なし』
『……仰角調整完了です。両舷のブースター及び後部エネルギージェネレーターらしき基部を破壊できるように調整してあります』
「各艦隊のサーバントとワルキューレを回収。各国の艦隊に通信、鹵獲された艦艇は好きに回収しろと、捕まえてある親衛隊には気をつけろって」
『ピッ……了解です』
これで艦艇は問題ない。
あとは、この戦争を終わらせるだけ。
「トラス・ワン、飛行船の航行システムを撃ち抜け‼︎」
『……了解』
──ドッゴォォォォォォン
アマノムラクモの艦首から、エネルギーの塊が次々と打ち出された。
78口径・三連装魔導パルスカノンによる砲撃、それは一撃でアドミラル・グラーフ・シュペーのバリアを破壊し、システムをオーバーロードさせてしまう。
その直後、フォースバルカンカノンが両舷のブースターを破壊。船体装甲を抉りこみ、飛行船は移動する手段を失ったかのように見えた。
「再度、警告だ。降伏するなら命の保障はすると」
『ピッ……送信完了』
「ミサキさま、各国の艦隊から通信です。『ここから先は、我々に任せてほしいと』」
「ダメだ、第三帝国に対して降伏勧告を行なったと伝えて……」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
ミサキが叫ぶのとほぼ同時に、各国の航空部隊が空母から次々と発艦。
飛行船に向かって飛んでいくと、無差別にミサイルを発射していた。
そして、フォースバルカンカノンによって抉られた船体めがけて、次々と艦艇からミサイルが射出されている。
──ドッゴォォォォォォン
ジャミングされているのかわからないが、抉られた箇所にはなかなか命中しない。
だが、ロシアの戦闘機が放った一撃は、その抉られた部分に直撃して爆発した。
強度が高い外装甲板のせいで、発生した爆風は逃げ場を失い船体内を荒れ狂う。
そして装甲の薄い箇所を目掛けて、流れていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
アマノムラクモが行動を開始した。
その通信は、洋上で待機していた連合艦隊に希望をもたらした。
その直後のカリバーンの勇姿を見て、アマノムラクモの戦闘力の恐ろしさを目の当たりにしたところまでは良かったものの、各国艦隊では、あのバリアを破壊することができずにヤキモキしていたのである。
だが、鹵獲されていた艦隊がアマノムラクモのエージェントによって解放され、さらにアマノムラクモの主砲により飛行船のバリアが破壊されたのである。
すでに両舷の移動用ブースターは破壊されて航行不能。あとはアマノムラクモが鉄槌を下すだろうと、戦局を見届ける予定であったのだが。
………
……
…
「このまま破壊されて水没されると、あとでの回収が大変だな。本国は、あれを鹵獲できるなら確保せよとも連絡してきているが」
「では、トドメをさしたのち、海上に不時着した飛行船を調査する部隊を派遣するのがよろしいかと」
「…… 殲撃20型を爆装させろ。準備できたものから、次々と発艦、飛行船を降下させるように精密爆撃を行うように」
中国艦隊では、そのような指示が飛び交い、下がりまくっていた士気を鼓舞するかのようにパイロットたちが殲撃20型で出撃する。
「……艦長、アマノムラクモからの通信です。第三帝国には降伏勧告を行ったから、手出し無用と。交渉その他は、アマノムラクモが行うそうですが」
「返信。艦隊が捕獲された責任を取りたい。飛行船の破壊については、中国が主導で行うと」
「了解です」
その中国が発艦したことにより、他国も次々と飛び出していく。
目的は第三帝国の殲滅と叫んでいるが、その正体は『未知の飛行船の鹵獲』が目的であるのはいうまでもない。
やがて、ロシアのミサイルが傷がつき装甲が開口していた箇所に突き刺さり、爆発する。
さらにいくつもの攻撃が突き刺さり爆発すると、その爆発による衝撃と熱量は、アドミラル・グラーフ・シュペーの艦橋まで到達し、キャノピー部分を破壊して外に逃げていく。
あの爆風の中、生きているものはいない。
各国艦隊は、連合艦隊の勝利に両手をあげて喜んでいた。
だが、その光景を見ていたミサキは、拳を握って叫ぶ。
まだ、生き残っている人がいないか確認しろと。
そして、アドルフの反応を探すようにと。
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