57話


 「深愛さんからありがとうってきてさ、マジうれしいんだけど!」


暦は春だが気温はどうみても真夏になりつつある週明けの月曜日。

午前の授業が終わり、理人と習志野に連れられて学食で昼食をとっていたところ、習志野が深愛姉から届いたLIMEの画面を俺に見せてきていた。


「……そりゃよかったな」


俺は一言だけ返すと注文したしょうゆラーメンを啜っていく。


「ってか話を聞いてるとなんで野球のグローブなんだ?」


俺の横に座った理人が注文したカツカレーを食べながら習志野に聞いていた。


「最近野球好き女子が増えてるのしらないのー? おっくれてるぅ」


習志野は理人を指差しながら笑っていた。


「そんなもんいちいち知ってどうするんだよ」

「それだから香取は女にモテないんじゃね?」

「うるせーよ! そういうお前だって男が近くにいたことねーだろ!」

「私には深愛さんがいるだけで充分!」

「うっわ、百合は2次元だから萌えるけど3次元はちょっとひくわー」


理人と習志野の口論を横目に俺はため息をつく。


「そういえば、佐倉は何をあげたんだ?」


理人を相手するのが疲れたのか習志野は話し相手を俺の方に向ける。


「……深愛姉の好きなキャラの人形」

「へえ、見つかってよかったじゃん!」


ゲーセンで獲得した何を言われるかわかったもんじゃないので

口が裂けても言えなかった。



「ごちそうさま……」


スープを全て飲み干してから手を合わせる

2人はあれからも話していたせいか、まだ食べ終わってなく

それでも何かを理由に口論しながら食べていた。


トレイを持って立ち上がり、返却口に戻しにいき

ついでに何か飲み物でも買おうかとおもい、学食の奥にある

自動販売機に行く。


「……コーヒーでいいか」


午後の授業に備えて……といいつつ飲んでも寝ると思うけど


自販機のボタンを押して取り出し口から取ろうとした時に

横から何かが転がるのが見えたので手で抑えた。


手をあげるとそこにあったのは銀色に輝く100円玉だった

何故と思いながらも拾う。


「よかったぁ、ありがとう!」


と、後ろから声をかけられた。


コーヒーをとってから立ち上がり、声のするほうを向くと


「あ……」

「あー!?」


お互い顔を合わせて驚いていた。

目の前には土曜、ショッピングモールで深愛姉に声をかけてきた

市川大地なる人物がいた。


爽やかな感じをさせるスポーツ刈りにスポーツを長い間やっていて

日焼けしたのであろう小麦色の肌。

土曜見かけた時は、何も思わなかったが深愛姉の言う通り

女子にモテそうな感じがしていた。


「君は土曜日にたしか袖ヶ浦さんと一緒にいた!」


同じ高校だったのか、ホントに世間って狭いんだなと

しみじみと感じてしまう。


「色々聞きたいことがあるんだけど、みんな待たせてるし……!」


大地は腕を首を傾げながら組み、うーんと唸っていた。

そして、何か閃いたのか顔を上げながら腕でハンコを押すような仕草をしたあと


「そうだ! 放課後にちょっと付き合ってくれないか?」

「……どこへです?」

「駅前のカフェなんだけど……」


そう言って大地はポケットからスマホを取り出して画面を俺に見せる

画面には深愛姉に付き合わされて行ったカフェのホームページが映し出されていた。


「……知ってますよ。 放課後ここに行けばいいんですか?」

「そうそう! 物分かりがよくて助かるよ!」


大地はなんかニコニコしながらスマホをポケットにしまう


「それじゃ、放課後に! お願いだから忘れないでくれよ!」


大地は手を振りながら、学食から出て行った。


「……面倒くさいことになりそうだな」


俺はため息をつきながら理人と習志野がいる席に戻って行った。




「よっしゃあ! 今日の授業も終わったからさっさと帰るぞ!」


本日最後を告げるチャイムが鳴ると、先ほどまで教科書を枕がわりにしていた理人が起きだし、やかましい雄叫びをあげていた。


最後の授業は現実と夢の間を彷徨っていたが理人の声に驚き、

現実に無理矢理引き戻されていた。


「……香取、うるさい」


どうやら隣の席の習志野も寝ていたのかゆっくりと体を起こしていく。


「そうだ悠弥、駅前のゲーセンにいかね? 新作の音ゲーがでたみたいなんだけどさ」

「……悪いな、今日は用事があるんで」

「なっ……もしかしておまえ女とデートか!」


どうしてそういう発想になるんだよ……


「残念ながら男だ」

「俺よりもその男をとるっていうのね!」


理人はオネエ口調になっていた


「うるさい、黙って前向いてろ」

「あーあ、せっかく俺との繋がりのパラメーターがアップするところだったのによ」

「そんなものどうせ捨てパラメーターだろ?」

「ひどい……!」


俺の返答に理人は体をくねらせて叫んでいた。

そのやりとりが面白く感じていたのか、習志野は隣で体を震わせながら

笑いを堪えていた。




「寄り道しないでまっすぐ帰るんだぞ!」


担任が簡単にホームルームを終えるとすぐにカバンを持って教室から出て行った。


目的のカフェに向かうと、既に大地はカフェの前で

スマホを見ながら立っており、俺の姿に気づくとスマホをしまい

手を振っていた。


「それじゃ入ろうか、ここケーキがすごく美味いんだよねー」


大地は笑顔で店の中に入っていく。

その姿にどことなく既視感を感じていた。


「えっと、レアチーズケーキのセットで飲み物はハーブティで」

「……コーヒーで」


店に入り、スタッフに席まで案内されると

大地はすぐにスタッフを呼び、注文をしていった。


「さてと、そう言えば自己紹介がまだだったね、僕は——」

「——市川大地……さんですよね、姉から聞いてます」

「……え? お姉さん??」


俺の返答内容に疑問を感じたのか、大地は不思議そうな顔をしていた。


「ちょっと待って……? 君は袖ヶ浦さんの弟?」

「……そうですよ」


大地は腕を組んでうーんと声をだして唸り始めていた。

……俺、何か変なこと言ったのだろうか?


大地が唸っている間に注文したレアチーズケーキとハーブティとコーヒーが

テーブルの上に置かれた。


大地は唸りながらもケーキを食べていた。

その間、会話はなく俺は黙ってコーヒーを飲んでいた。


そして、大地がケーキを食べ終わりセットでついてきた

ハーブティに口をつけると、やっと口を開きだした。


「君は本当に袖ヶ浦さんの弟なんだよね……?」

「……さっきも言いましたが、そうですよ」


そしてまた黙り出す大地。


「あ、そういえば君の名前を聞いてなかったね」


何かを思い出したかのごとく、突然話を変えていた

俺はこの何とも言えないやりとりに対してため息をついていた。


「……佐倉悠弥です」

「え? さくら??? 袖ヶ浦じゃないの???」


大地が素っ頓狂な声をあげる


「でも、君は弟さんなんだよね? 袖ヶ浦さんの?」

「何度も言いましたが、そうですよ……!」


同じことを聞かれてだんだん腹が立ってきて少し荒く答える


「……あ、なるほどそういうことか! だよなあじゃなかったら姉弟の2人きりでいい格好して飯なんか食いにいかないよなあ」


何かに納得したのか、先ほどまで曇っていた大地の顔が明るくなっていた


「……1人で納得されると困るんですけど?」

「あー……ごめんごめん、なんか納得したら気持ちがスッキリというか覚悟ができたというか」


スッキリしたと話すわりに、なんか歯切れが悪いな。


「君が袖ヶ浦さんの相手ならまあ、仕方ないよね、うん 早めに行動しなかった自分が悪いわけだし」


大地が何を思ったのか気づき、否定するために声をあげようとするが

手を目の前に出されて遮られてしまう。


「いや、いいんだよ気を使わなくても! 優しい袖ヶ浦さんのことだ、俺に気を遣ってくれたんだろう」


……どう見ても勘違いしていた。

否定するために大声を上げようとするが大地は間髪入れずに話し出していた。


「……でも、弟だなんてさすがに酷くないかい?」

「いや、だからちが——」


「——袖ヶ浦さん、弟を亡くしているのにさ」



最後の大地の言葉を聞いた俺は驚きのあまり声がでなくなっていた。


……どう言うこと?


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は4/27(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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