55話
「ただいま……」
玄関を開けて家の中に入ると奥から微かに音が漏れていた。
ということは深愛姉は帰っているのだろう。
……それならこれをさっさと渡すか
ゲームセンターで手に入れたぬいぐるみを両手で持ちながらリビングに入っていく。
「おかえ――ってどうしたのそれ!?」
キッチンでハーブティーを注ごうとしていたのだろうか
キッチンの前に立っていた深愛姉は俺が持っていた袋をみて目を大きく開けて驚いていた。
俺は深愛姉の隣の席に袋をおいてから対面の席についた。
ハーブティーを注ぎ終わるとテーブルの上にカップを置き、すぐに俺の方を見る。
「中みていい?」
「どうぞ」
俺が返事をすると、すぐに袋を開けて中身を取り出す深愛姉。
「うそ……本当に取ったんだ!」
かずえさんのぬいぐるみをとりだして
すぐ抱きしめていた。
「そうそう、いい忘れてたけど」
「なに?」
深愛姉は不思議そうな顔で俺を見ていた
……ぬいぐるみを抱いたまま。
「1日早いけど誕生日おめでとう」
「ふぇ!?」
深愛姉は驚きのあまり抱いていたぬいぐるみを落としそうになっていた。
「私の誕生日知ってたんだ……絶対に知らないと思ってた!」
深愛姉は再度ぬいぐるみを隣の椅子に置くと
いつもの自分の椅子に座る。
「……俺ってそこまで信用ないのか」
俺はため息混じりに答える。
「うそうそ、冗談だよ!」
先ほど淹れたハーブティー口につけながら照れた様子で答える。
「すごく嬉しいありがとう!」
「……どういたしまして」
深愛姉のお礼の言葉に今度は俺のほうが照れてしまいそうになっていた。
ごまかすために立ち上がり、おもむろに食器棚から自分用のコップを取り出す。
「ご飯にするから着替えてきちゃいなよ」
「……わかった」
そういえばまだ制服のままだったな……
部屋で制服から私服に着替え、リビングに戻るとテーブルの上にはグラタンが2つ置かれていた。
「あと、サラダ持っていくから先に食べてて!」
自分のと深愛姉のコップにお茶をついで
待っていると深愛姉がサラダボールとトングを持ってきて椅子に座る
「それじゃ食べようか!」
「「いただきます」」
2人同時に手を合わせてからフォークをもって
それぞれ食べていく。
「あれからずっとゲームセンターで頑張ってたの?」
トングでサラダを取りながら深愛姉が話しかけてきた。
「……もう少しで取れそうだったからな」
途中で諦めてすぐ取られたらすごく無駄になりそうなするし。
……結果1000円で取れてよかったが。
下手をすると倍使っても取れないこともあるし。
「そういう深愛姉は? 誰かに呼ばれたとか言ってたけど」
「うん!」
「琴葉さん?」
あのクソ女のことをさん付け呼んだ自分にものすごく違和感を感じた。
「違うよー。 琴葉だったらそう言ってるよ」
たしかに……お互い知ってるわけだし。
「月曜日に中学の時に仲良かった子と久々にあったんだよ!」
「よかったじゃん」
「うん! 市川君っていうんだけどね」
「男?」
「そうだよー!」
深愛姉の口から友達の名前がでるとしたら琴葉を筆頭に女の名前だが
男の名前がでるなんて珍しいこともあるんだな。
「中学のときはテニス部にいて、すごく女の子からモテたんだよ!」
話を聞く限りマンガやアニメにでてきそうな男だな。
「それでね、月曜に駅でバッタリあって、それ以来毎日連絡くれるんだよねー」
深愛姉はサラダを皿に取りながら話す。
友達と再開したことに喜んでいるようだ。
「で、さっきもおいしいケーキのお店を見つけたって電話がきて行ってきたんだよ!」
楽しそうに話す深愛姉。
話してる本人は他愛もないことなんだが、若干気になっていることがあった。
「それだけ?」
「うん、それだけだよ?」
そういって深愛姉はサラダを食べていく。
「どうしたの? なんか頭抱えてるけど」
「変な悠弥……」
そういったのも束の間、やっと気づいたのか
驚きの声を上げていた。
「もしかして、デートだと思ってるの?」
「……そうとしか思えないだろ」
毎日連絡したり会ったりしているんだし
だが、深愛姉は俺の考えを否定するように微笑んでいた。
「そんなことあるわけないよー! 市原君かっこいいから私になんか興味あるわけないじゃん!」
いつものように微笑む深愛姉。
普段の行動からなんとなく思っていたがこの瞬間、その疑問が解決した。
そう……。
深愛姉は超がいくつもつくほどの恋愛事情に鈍感であると。
人のことにはそれなりに敏感なのに。
「……なんかその人が哀れに思えてきた」
思わず俺の口からため息が漏れ始める。
「うん? 何か言った??」
「独り言だから気にするな」
そう言って俺は自分が食べた食器をシンクのに置き
軽く洗ってからそのまま部屋に戻っていった。
「さてと、久々にゲームでもするか」
なんだかんだ連休中も色々あり、連休後も今日までプレゼントのことで
ゲームどころではなかった。
だが、悩みから解放された今、しかも念願の土日。
これはもうやるしかない。
そうと決めたら風呂を済ませて夜通しできるように準備をすることにした。
「……俺を止められるものは誰もいない!」
「ゆうやー! おきてるー!」
バタンと勢いよく開ける音で目が覚めて体を起こす。
音の元凶は毎度ごとくノックせずにドアを勢いよく開ける深愛姉だった。
「……頼むからノックをしてから入ってくれ」
ため息と同時に文句を言いながらベッドから出る。
夜通しやろうと思っていたが、1週間の疲れが溜まっていたのか
何度も寝落ちを繰り返していたので、諦めてすぐに布団に入った。
昼近くまで寝れば明日はガッツリできるだろう思っていたんだが……
ちなみに今はまだ土曜の午前中。
特別な用事でもない限りまだ夢の中にいる時間だ。
「みてみてー!」
そう言って深愛姉はまだ脳がきちんと稼働していない俺に向けて
持っていた紙を見せてきた。
「……なんだよ」
あくびをしながら見せてきたものを手に取る。
「チケット……?」
「うん!」
「……誰から?」
「カズさんとママからの誕生日プレゼント!」
そう言う深愛姉はすごく嬉しそうに話していた。
チケットを見ると駅前のショッピングモールにあるスカイラウンジの名前が書かれていた。
たしか本格的なコース料理が楽しめる場所で屋上にあるためか
天気がいい日は富士山がよく見えるとか。
そういえば前に父親に連れてきてもらう予定だったが
気分が乗らずバイクで出掛けてしまったので行けずじまい。
「……で、2枚あるけど誰といくんだ?」
まあ、深愛姉のことだから琴葉といくのが妥当か
有効期限が今日みたいだし、それなら俺は夕飯を事前買っておくとするか
「誰とって悠弥に決まってるでしょ!」
「……何で?」
「だってカズさんもママも悠弥と楽しんできてって言ってたし」
そう言って深愛姉は自分のスマホを俺に見せてきた。
画面には家族用のLIMEが表示されていた。
ログには父親と深月さんが深愛姉の誕生日のお祝いを送るところから始まり、チケットを郵送で贈ったことを伝えていた。
そして最後に……
『チケットは2枚あるから悠弥と一緒に楽しんでおいで』
と、両親それぞれが同じようなことを書いていた。
「ってことで、今日の夜は外に食べにいくからね!」
本心は嫌だと言いたいところだが……
せっかくの誕生日に水を差すのも気がひけるのと
どうせ異議を申し立てても、深愛姉のペースに巻き込まれるので
疲れる前に素直に従うことにした。
……あと前に食べ損なったので今度こそはってのもある。
「わかったよ……でもさ」
「どうしたの?」
深愛姉は不思議そうな表情で俺の顔を見ていた。
「……夜にいくのはいいとして何でこんな時間に言ってきたんだ?」
「だってこうでもしないと早く起きないでしょ?」
「せっかくの土曜だからいいだろ……」
俺の返答に深愛姉は微笑みながら
「土曜だからこそ早く起きないともったいないでしょ?」
そう告げて部屋から出ていった。
「……顔洗ってくるか」
もう一度寝ようと思ったりもしたが、深愛姉と話しているうちに
完全に眠気がなくなっていたので、部屋をでて洗面所に向かうことにした。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回は4/20(水)に投稿予定です
お楽しみに!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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