第33話


 「いくらなんでも休憩なしはやりすぎたな……」


家の駐車場にバイクを停め、エンジンを切った瞬間

全身に疲労感が駆け巡っていった。


休みで朝も早かったから交通量も少なかったので気分よく走ることができていた。

いつもなら途中の道の駅で休憩をとっていたが、今日に限っては

そのままUターンして帰ってきていた。

その結果がこの前身を駆け巡る疲労感である。


だが、そのおかげか……悪夢の方がまだマシだと思えた夢を見たことによるイライラはある程度なくなっていた。

その代償がこの疲労感ならマシなほうだ。


「部屋に戻ったら寝るか……」


ヘルメットを外すと、心地よい風が当たる。

体を伸ばしながら両手を上空に振りかざすと関節が鳴り出していた。


自分の体の硬さに呆れながらも玄関を開ける。


「ただいま……」


家の中に入ると、リビングの方から耳に付く笑い声が聞こえていた。

深愛姉がテレビを見ているのだろう。


ヘルメットをバイク専用の収納庫に入れてからリビングに行くと

いつも通り、深愛姉はソファに体育座りの格好でテレビを見ていた。


「深愛姉ただいま」


俺が声をかけるとすぐに俺を見て


「ゆうやぁぁぁぁ!!」


俺の方に向かって走りだし……


「ぐお……っ」


勢いよく俺に抱きついていた。


「何だよ、どうしたんだ!?」


深愛姉の肩を両手で掴んで引き離そうとしたが

よく見ると小刻みであるが体が震えていた。


「深愛姉……?」


声をかけると深愛姉は顔を上げて俺の顔を見ている。

目は真っ赤になっており、目尻には涙が溜まっていた。


「……もしかしてまたホラー映画みたのか?」

「ちがうよー!!」

「じゃあ何で泣いているんだよ……」


俺が聞くと深愛姉は上げていた顔を下げて

俺の胸元に自分の額をつけていた。


「さっきね、成田さんって人が来たの……」


深愛姉の言葉に自分の心臓が跳ね上がる

何であの人が俺の家を知っているんだ

教えたことないはずなのに……!


「……まさか、何かされた?!」

「それはないから大丈夫」


深愛姉は小さく首を横に振っていた。


まだ震えている姿を見る限り、よほど怖い目にあったのだろう


「……深愛姉、ごめん」







「はい、いつものハーブティでいいんでしょ?」

「うん、ありがと」


悠弥がタンブラーに入れたハーブティをソファに座る私の元に

持ってきてくれた。


悠弥も自分のタンブラーにコーヒーを入れて私の隣に座った。


「……何で俺にひっつく?」


私は横を向いて悠弥の腕に体全体を預けていた。


「えー! いいじゃん! 減るものじゃないでしょー!」


いつも通りの対応で無理矢理悠弥を納得(?)させた


成田さんのことが自分が思っている以上に恐怖の出来事になっていた。

少しだけど体の震えが止まらなかった。


でも、さっきも悠弥に抱きついた時それが無くなっていたから

今も悠弥に寄り添っている。

なんかすごい安心感があるんだよね、悠弥は。


「それで……あの人はなんて?」


悠弥は持ってきたコーヒーを飲みながら聞いてきたけど

なんかいつもより声のトーンが低く感じた。


「……昨日のオフ会の後だから、てっきり悠弥と付き合ってるのかなと

思っちゃってて」


私もハーブティを飲みながら話していると、後ろから悠弥のため息が聞こえてきた。


「……昨日の俺をみて、そんな風に思えたのか」

「なんか楽しみすぎて疲れちゃったのかなって」


私は苦笑しながら答えるが、悠弥は何も言わず深いため息をついていた。

もー……幸せがにげちゃうよー!


「だから、悠弥とはもう付き合っているんですか? って聞いたの」

「それで?」

「すごい笑顔で付き合ってるって、しかも1年以上も」

「……そっか」


悠弥はただ一言だけいうとコーヒーを飲んでいた。


「……ねえ、悠弥?」


私が呼ぶとタンブラーに口をつけたまま私の方を向いていた。

口の中にいれたコーヒーを飲み込む。


「……なに? まだ何か言ってた?」


これだけはどうしても聞きたいけど……

ものすごく恥ずかしかった。

こんなこと琴葉にも言ったことないのに……


「えっと……悠弥はさ……その……」


どうやって話を切り出そうか混乱している私を

悠弥は心配そうにみていた。


「……深愛姉、大丈夫?」


悠弥はコーヒーを飲みながら心配そうに私の顔を見ていた。


「……えっち、したの? 成田さんと」


私が聞いた瞬間、悠弥はむせていた。


「ごめん、大丈夫!?」


持っていたコーヒーを床に置いて悠弥の背中をさする


落ち着いた悠弥は


「いきなり変なことを聞くな……!」


むせた時にでた涙も拭かず怒鳴っていた。

うん、今のはさすがに私が悪かったと思う。


「だって、そう言ってたんだよ!」

「誰が!?」

「成田さんが!」

「あーもう……!!!!」


叫んだ悠弥は残っていたコーヒーを勢いよく飲むと

立ち上がって、コーヒーメーカーを起動させていった。


タンブラーの中にコーヒーを入れてまたソファに戻ってきた。


「……それで、したの?」

「……してない」


悠弥はため息混じりの声で答えていた。

何だろ、ちょっと安心したかも


「……じゃあ、成田さんが言ってたのは全て嘘なの?」


全て嘘であったらいいなと思いながら私は聞いていた。


「……やったことに関しては嘘というか、未遂だよ。 ただ……」

「ただ?」

「……彼女であることは事実だ」

「そう……なんだ」

私は自分でもわかるぐらい声のトーンが落ちていた。


「……『元』だけどな」

「え?!」


突然のことで声が裏返っていた。


「あの人は元彼女だ。とっくに別れてるよ……俺の中では」

「そっかぁ」


よかった……。

思わず私はこの言葉が口から出そうになっていた。

それを誤魔化すために残っていたハーブティを飲み干した。


タンブラーを床に置くと、そのまま悠弥の膝の上に寝っ転がる


「……何で俺の膝の上に寝るんだよ」

「悠弥の膝は私の定位置だからだよー」


悠弥は不快だと言いたそうな顔をしていたが

私をどかせるようなことはしなかった。


「ねえ、悠弥!」

「今度は何だ?」

「悠弥と成田さんの付き合ってる時の話が聞きたいなー」

「は?」


悠弥は「何言ってんだコイツ?」と言いたそうな顔をしていた。


「話してくれなきゃここから離れない!」

「……話してもどかないだろ、どうせ」

「えへへー」


悠弥はため息をつくと私の方をみて


「……つまらないし、気分が悪くなっても知らないからな」

「大丈夫だよー!」


そう、弟のことを知っておくのは姉の義務だからね!



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


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